第二一二号(昭一五・一〇・三〇)
   教育勅語渙發五〇年に当って    文 部 省
   明治神宮鎮座二〇年を迎へて    内務省神社局
   地代家賃の新統制令解説     厚 生 省
   国民徴用と国民登録制の改正    厚 生 省
   興亜学生勤労報国隊現地報告
   部落会・町内会の整備について   内 務 省

部落会・町内会等の整備について    内務省

一 整備の意義
 
 大東亜共栄圏の確立を目指し、世界新秩序建設の大使
命に向つて確固たる進路を決定した我が国は、今や、一
日も速かに高度国防国家体制を完成しなければならない
重大な時機に際会してゐる。高度国防国家の基礎は強力
なる国内体制にあるのであつて、この目的に向つて国家
の凡ゆる制度と国民の総力を集結することこそ新体制の
任務であるといはねばならない。もとより新体制の確立
は、凡ゆる国家の分野に亙つて実現されなければならな
いが、その最も重要な基礎をなすものは万民翼賛の国民
組織の確立である。一億同胞として生きた一体として斉(ひと)
しく大政翼賛の臣道を完うせしめる組織である。また
国家新体制の確立に当つては、国家の行政組織の上にも
行政能率の刷新上必要な整備が要求される。従来中央の
行政機構については幾度か制度の改革が行はれてゐる
が、今日国家の行政力を強化する為めには、常に国民と
の接触点に立ち行政の運用を担当する地方行政の下部
機構についても戦時に即応する充実強化が図られなけれ
ばならない。
 今回内務省訓令で、部落会・町内会等の整備拡充を企図
したのも、国民の生活基底である隣保生活を組織化し、
この組織を通じ国民精神の錬成と国政万般の透徹と運用
とを図り、以て敍上の国内体制確立に副はんが為めの基
礎工作に外ならない、即ち部落会・町内会等の組織は、
一つには国民を地域的に組織化し、各々その日常生活に
於て国家に奉公を全うせしめる組織であり、この意味に
於ては部落会・町内会は万民翼賛の国民組織の地域的基
底をなすものといふことが出来る。
また一つには、部落
会・町内会は、国家行政の下部機構として整備しようとす
るものであるから、この意味では部落会・町内会は市町村
の下部組織として国家行政万般の透徹とその円滑なる運
用を確保する任務を果すものである。

二 沿革と現状

 部落会や町内会・隣保班等の組織は、或ひは古い隣保
団結の遺風の上に、或ひは住民生活の現実の要求に応じ
て今日まで自然の成長発達を見て来てゐる。即ち、農村
の部落は昔から隣保共助の美風に結ばれ、殊に徳川時代
に自然村として永く培はれて来た歴史的感情の中に、
精神的結合の紐帯があるのである。明治維新後町村制実
施の際、法制上部落を認めず、今日の町村に合併を強行
して以来、部落に対しては長く解体方針が採られて来た
にも拘らず、部落は農村に於ける生きた現実の生活単位
として、その生命を維持して来た。また町内会は、多く
は都市生活に於ける住民の親睦団体又は自警団体として
発生し、次第に都市行政の補完組織として公共的色彩を
帯びるものとなつた。殊に区域も広く、市民の離合集散
の常ない大都市では、町会や隣組の組織は、荒んだ都市
生活の中に隣保相扶の醇風を注入し、個人主義生活の欠
陥を補ふものとして近来著るしく発達した。
 また今日の隣組の沿革をなす五人組、十人組等の隣
保組織は、遠く大化の改新の五保制度に淵源を有し、豊臣
時代と経て徳川時代には五人組制度として、当初は浪人
や異教者の取締等犯罪の検察や治安の維持に、進んでは
納税、勤倹貯蓄、互助共済等の民生全般に亙る施政の上
に活用され、今日なほ都市農村を通じその遺風を存する
ものがある。このやうな旧い隣保団結の醇風も、明治以
後、個人主義の風潮が輸入されると共に漸く衰微を辿つた
が、その後再び隣保団結を基礎として部落常会を普及し
部落活動を促進して、これを地方振興の上に活用しようと
する努力が、教化運動、農村経済更生、選挙粛正等の諸
運動となつて復興し、近くは事変下に於て国民精神総動
員の実践網の組織運動が活溌に展開された。
 殊に支那事変発生を契機として部落会や町内会は銃後
の後援、国民防空をはじめ貯著の実行、物資の増産、供
出、配給、消費の規正、生活の刷新、切符制度の実施
等、重要国策の遂行の単位として大きな意義と任務とを
与へられるに至り、その整備は今ではあらゆる国家行政
の運行の上から不可欠のものとなつた。斯うして最近で
は全国広範囲に亙つてその組織の結成を見たのである。
昨年十二月現在の内務省調査によれば、部落会・町内会設
置数は
市部          35,188  (組織率七割三分)
町村部         156,178 (組織率八割九分)
計           191,366
の多きに達してゐる。しかるにその整備指導の方針は地
方的に区々(まちまち)で、その組織構成等にも尚不備欠陥があり、
所期の活動的機能を発揮するに至らぬものも少くなかつ
た。
 この現状を見ると、全国一貫せる整備指導方針の下
に、速かにその全国的整備を完成することが刻下の急務
である。今回の内務省訓令に定められた「部落会・町内会
等整備要項
」は、本制度整備の目的と組織の大綱を示した
もので、これによつてその全国的整備が速かに実現せら
れることを期待するものである。

三 目的と任務

 本制度の整備に当つては、先づその目的と任務とを明
確にすることが必要である。従米部落会・町内会等の整
備の必要は種々の異つた国家の要求に応じて唱導さ
れ、またその組織は地方によつてそれぞれ発生の動機や
沿革を異にするため、その指導方針にも、とかく統一を
欠く憾みがあつた。しかし部落会や町内会は、地域的国
民組織として、その任務は一部特定目的のためのみに捉
はれるものではなく、国家の全般的要求を満たす綜合的
な目的に従ふものでなければならない。
以下今回定められた部落会・町内会の目的を説明しよ
う。

 一 隣保団結ノ精神二基キ市町村内住民ヲ組織結合シ
  万民翼賛ノ本旨ニ則リ地方共同ノ任務ヲ遂行セシム
  ルコト

 部落会・町内会は、我が国固有の隣保団結の精神を基
調として市町村内の全住民を組織結合するものである。
隣保団結の精神は、我が国古来の尊い美風であり、自治
の根柢として国民団結の基礎を築く力である。全国民一
家族の如く隣保苦楽を共にし、相扶け相携へて努力する
ところに我が国固有の力強い国民的団結の姿がある。部
落会や町内会はこのやうな隣保団結の精神の生きた結晶
であると共に、市町村の全住民を内部から一体化するも
のでなければならない。このことこそ、市町村の行政を、
真に住民生活に即応せしめ全国民を有機的一体に結合す
る所以である。
 かやうに隣保団結の精神を基調とする部落会・町内会
は、万民翼賛の本旨に則り地方共同の任務を遂行する
を以てその本質的任務とする。未曾有の重大時局に直面
し、全国民が協心戮力その総力を発揮し、確固たる国
内体制を確立せんがためには、先づ隣保団結の精神を基
調として、全国民を地域的に組織化し、これを国民組織
の固き基底として、國體の本義に基づく万民翼賛の真姿
を顕現しなければならない。即ち全国民は先づ部落会・
町内会・市町村の構成員たるの自覚を以て、隣保相協力
し公共の任務を遂行し、各々その職分に応じ、その日常
生活に於て国家奉公の誠を尽すものでなければならな
い。また部落会・町内会に於ける地方共同の任務はすべて
国家目的を基調とし、これに帰一する如く遂行されなけ
ればならない。これが今日の地方自治の国家的使命であ
り、この組織が万民翼賛の国民組織の基底たるべき所以
である。

 二 国民ノ道徳的錬成ト精神的団結ヲ図ルノ基礎組織
  タラシムルコト

 先づ部落会・町内会の組織を通じて国民の道徳的錬成
が図られねばならない。即ち住民は隣保相扶の美風を発
揚して協同輯睦(しふぼく)し、協同生活の実践的訓練と陶冶により、
相互によく切瑳琢磨して、その生活の醇化と道徳の向
上を図らねばならない。国民が真に隣保生活から進んで
国家公共の意識に目醒めるならば、日常生活の分野に於
ける個人本位の行為はその跡を絶ち、経済生活部面に於
ける非国民的行為などは地を払つて、真に国民倶に憂ひ
倶に楽しむの健全なる国民道徳が実現されるのである。
即ち部落会・町内会は、国民各自がその日常に於て個人主
義的生活を脱却し、公益優先の全体的立場に立脚する真
の国民的性格に錬成される訓練の組織たらんとするので
ある。
 また部落会・町内会は国民の精神的団結の基礎組織と
ならねばならぬ。今や一億一心、全国民心を一にし、その
力と合せて国家の重大時局に当るべきとき、時艱克服の
剛健な精神的団結の気魄は深く国家の基礎より盛り上ら
なければならない。即ち隣保団結を基礎とする部落会・町
内会の結合は、国民の精神的結束の紐帯となり、全国民
の一体的団結を築き上げる基底でなければならない。隣
保の団結こそ一億一心を生み出す力である。かくして部
落会・町内会は盛り上る国民活動の源泉となり、その精
神的温床となり得るのである。

 三 国策ヲ汎ク国民ニ透徹セシメ国政万般ノ円滑ナル
  運用ニ資セシムルコト


 今日広汎多岐に亙る国家行政の運行に当り效果ある
結実を期するためには、普く国民・各層に向つて国家の
行はんとし、また求めんとする意図を敏速に透徹せし
め、国民として欣然国家意図に参加せしめる態勢を整へ
なければならない。斯様な国家の意図は、単に既存の
行政機関を通じ一片の示達によつて命令的に伝達する
だけではなく、更にその下に組成された部落会・町内会
のやうな、住民の結合組織を通じて、はじめて全国民
各層の末端に至るまでよくこれを消化吸収せしめ得るの
である。またこの組織を通じよく国策の趣旨の存する所
を徹底せしめ、住民の深い理解に基づく力強い自発的協
力を喚起して、国民満幅の信頼と支持の上に国政の円
滑なる遂行を期すべきである。即ち部落会・町内会は、
市町村の下に国家行政運用の下部組織として、常に国民
生活との接触点に立ち、行政運用の滑車たる役割を果
すべきものであり、或ひは国策の透徹機関として、或ひ
は国民の国策実践の組織となつて活動しなければならな
い。

  四 国民経済生活ノ地域的統制単位トシテ統制経済ノ
   運用ト国民生活ノ安定上必要ナル機能ヲ発揮セサム
   ルコト


 部落会・町内会等の組織は、これを国民経済生活の側
から見れば、その地域的統制単位を形成するものであ
る。殊に今日のやうに、既往の自由経済が戦時計画経済
に再編成されようとする転換の時期に至つては、先づ国
民生活の地域的経済単位が確立されなければ、統制経済
の円滑な遂行を期することは出来ない。
 農村に於ける部落は、本来、住民の農業生産活動を中心
として結合した農村生活の協同体であり、住民の生産消
費両生活の基点となるものである。殊に戦時体制下に於
ける農村部落は、農業生産の綜合的計画化を実現し、そ
の協同化を促進する単位として、重要食糧品の増産、供
出、生産資材竝びに生活必需品の配給、消費生活の規正
等の任務を遂行しなければならない。また都市生活に於
ては、絞済生活に於ける生産部面と消費部面は概ね分離
され、都市生活を共通的に一貫するものは住民の消費生
活である。従つて都市に於ける町内会は経済的には消費
生活の組織として、統制経済の下に於ける物資配給、消
費規正の単位とならねばならない。
 殊に最近では統制の強化に伴ひ、生活必需品等の必
要物資の配給について切符制度が採用され、部落会
町内会、その下に在る隣保班がその配給単位として活
用されるなど、現実に於けるその経済的任務は頓に重要
性を加へて来たのであつて、将来一層統制分野の拡大さ
れることを予想すれば、他面に於ける配給機構の地域的
整備と相俟つて、速かにその組織の確立が望まれるので
ある。又都市農村を通じこのやうな消費統制の進展は、
また必然に住民生活の刷新合理化とその協同化とを必要
とするやうになる。この意味に於ては部落会や町内会は
統制経済の強化に即応する国民の新生活体制を実現し、
戦時に相応しい国民生活の建設に貢献すべき積極的任務
を有するのである。


 四 組 織

 部落会・町内会及び隣保班の組織整備の基準は今日の
組織の現状を参酌し、国家の必要な統一的要請を基礎と
して定められたものである。従つてこの組織を広く全国
に行き亙らせるやうにする一方、既存の組織についても
十分再検討を加へ、その区域構成等が不適当と認めら
れるときは必要な再編成を行ふ必要がある。またその整
備に当つては徒らに画一主義に流れて地方的な長所や精
神的結合を破壊することがないやうに留意し、また単に
形式的整備に堕することのないやう国民の深い理解と自
発的協力に俟たなければならない。

一、部落会及町内会

 市町村の区域を分ち、村落には部落会、市街地には町
内会を組織する。即ち両者の区別は、実質的な土地の条
件に従つて定められる。

1 名称と性質

 部落会又は町内会の名称は地方によつて適宜に定めて
よいが、少くともその本旨を示すものたることが必要で
ある。農家組合、衛生組合、防犯組合等を部落会・町内
会の名称とするのは適当と認め難い。
 部落会・町内会は、部落又は町内の全住民を以て組織す
る地域的の組織であると共に、市町村の補助的下部組織
たるものである。即ち部落会・町内会は、部落又は町内の
全住民を構成分子とする自主的団体たる地域的綜合組織
であることがその本旨である。また部落会・町内会は一面
市町村行政の補助的下部組織として、市町村の各種の行
政事務の委託を受け、市町村行政の補完的任務を遂行
するものである。

2 区 域

 部落会の区域は「地域的協同活動を為すに適当なる区
域」を基準とし、「行政区その他既存の部落団体」(例へ
ば農事実行組合等の部落農業団体)の区域を斟酌して明確
に決定することを要する。かゝる農村住民の協同生活単
位は大体に於て自然部落によるのが通例であらう。
 町内会の区域は原則として都市の町若くは丁目又は行
政区の区域によるべきものとされる。但し事情により例
外の場合を認め得る。また部落会又は町内会の戸数に著
るしい相違を生ずるのは好ましいことではないから、な
るべく「区域内の戸数」をも考慮に加へ、その区域を定め
るのを適当とする。
 次に部落会・町内会の活動を綜合的に強化するために
は、各種団体との緊密な連絡を必要とする。従つて、行
政区その他部落又は町内を単位とする諸団体の区域を整
備した部落会又は町内会の区域と一致するやう、整理統
一を図ることが必要である。

  3 町内会聯合組織

 都市に於ける町内会の数が相当多数に達し、市町村と
町内会との間に町内会の中間聯合組織を設けるのが便利
な場合がある。こんな場合には適当な区域(例へば学区)
によつて聯合会を組織することが出来る。然しながら市
町村(或ひは六大都市の区)全体を区域とする聯合組織は、
市区町村長が町内会を一元的に統轄する見地からも、ま
た後述の市区町村常会が町内会の連絡統制を図る上から
も、これと対立的な存在を必要としないから、これを認
めないこととした。

   4  役 職 員

 部落会・町内会等の完き運営が、指導者その人に存す
ることは論を俟たない。従つて部落会・町内会の代表者
たる会長の人選に当つては、区域内の信望ある指導的人
物であつて、よくその運営に専念し得る者を選任するや
うに努むべきである。なほその区域が行政区と一致する
ときは、部落会長・町内会長と区長は同一人とするを適
当とする。会長の選任は、地方の事情に応じ従来の慣行
に従つて、部落又は町内住民の推薦なり選挙の方法によ
るのが適当とされるが、。少くとも最後的には市町村長の
選任乃至告示の形式に依ることが、市町村長の部落会・
町内会に対する統轄の上から必要ある。その他部落会
や町内会のやうな小団体にあつては、名義だけの役員の
やうなものはなるべく置かず、必要に応じ事務を処理す
べき職員を置くことが適当である。

  5 部落常会と町内常会

 部落会と町内会は、さきに掲げた大目的を達成し、物
心両面に亙り住民生活各般の事項を協議懇談するため、
それぞれ部落常会・町内常会を開設する必要畢がある。
 部落常会・町内常会は会長の招集により全戸集会する
ことを原則とし、その範囲も世帯主に限らず家族全員に
及ぼすべきである。たゞ事構により区域内の全戸が集会
せず、隣保班代表者だけで常会を開き得るが、この例外
は、戸数が多く全戸集会するに適しない場合のみに限ら
れなければならない。部落会と町内会区域内の各種の会
合は、なるべく前記常会に統合して、常会を真に部落町
内の綜合協議機関たらしめ、とかく会合が多過ぎるとい
ふ煩を省くべきである。
 部落常会・町内常会は少くとも毎月一同これを開催す
ることを要する。


二、 隣 保 班

 隣保班は部落会又は町内会の隣保実行組織であり、そ
の名称はその本旨を示す限り適宜とする。隣保班の結成
により、真に向ふ三軒両隣りが相結び相親しむところの
隣保生活が組織化され、部落会・町内会の活動が強化さ
れ、全国民が漏れなく国家活動に動員されるのである。
 隣保班は十戸内外の隣接戸数を以て組織すべきである
が、古来の五人組、十人組等の旧慣中尊重すべきものは
なるべくこれを採り入れることとし、その他家庭防空、隣
保組織等既存の組織との一体化を図るべきである。隣保
班の構成は隣保協力の見地から地理的関係に従つて定む
べきであるが、その範囲内に於ては住民の職業関係をも
合せて考慮に加へる必要がある。
 隣保班には代表者(名称適宜)を置くこととする。代表
者の選任は班員の推薦、互選、輪番(まはりばん)等適宜とする。
 隣保班も部落会・町内会同様の趣旨の下に、常会を開催
すべきである。殊に部落常会・町内常会が隣保班代表者
の常会である場合は、隣保班常会は重大性を有する。隣
保班にあつても必要があれば中間聯合組織を設け得る
が、部落会・町内会を全区域とする聯合組織は固よりこ
れを認めない。

   五  運 営

1 部落会と町内会の統轄指導

 部落会・町内会は市町村を内部的に構成する下部組織
たるものであるから、その活動は当然市町村長の統轄
指導下に置かるべきものであり、またその組織を通じて
市町村全住民が一体的結合に組織され、市町村の融合統
一が実現されなければならない。従つて部落会・町内会
の活動は市町村の統一を害しない範囲に、その限界を持
つべきものである。
 また部落会・町内会は全住民を構成分子とする地域組
織であるから、その活動は常に全住民の積極的協力を基
礎とすべきものである。部落会・町内会が一部役員又は有
志等の少数者の手によつて私され、また不純な政治運
動に利用され、全住民の関心から遊離し、その信用を失墜
するやうなことは、その木質を没却するものであつて、
その運営に当り最も厳戒を要するところである。次に部
落会・町内会が市町村の補助組織として活用されるに当
り、徒らに必要の度を超えてその委託事務量を増大し、
その事務的負担を過重(くわぢゆう)ならしめることは、部落会・町内
会の本来の自主的活動機能を滅殺する虞れがあるから、
この点市町村当局者は深甚の考慮を要する。更に部落
会・町内会の会計事務については会費の徴収を合理化し、
冗費を節約して住民が負担過重に陥ることを防止し、ま
たその取扱については一層自主的監督方法を強化徹底す
ると共に、市町村長に於ても随時必要な監督措置を講ず
ることとし会の信用の保持と住民の負担の保護を図るべ
きである。

2 常会の運営

 部落会・町内会・隣保班がよくその使命を達成し得る
や否やは、常会の運用如何に俟つ所が多大であるから、常
会の運営と指導には格段の努力が払はれねばならない。
そもそも常会は我が国古来の自治慣習に由来し、我が
国固有の自治精神に立脚するものであつて、その本義は
和衷協同の精神的結合を前提とする隣保協同社会に於
ける全住民の集会たることに在る。常会の開設は、かやう
な旧い慣習と美風が真に現代にその生命を活かし、新らし
い時代に適応する如く運営されなければならない。即ち
常会の開催に当つては住民相互の和衷協同を前堤とし、
十分意思の流通を図つて懇談裡に協議を遂げるべきであ
り、また常会を通じ住民相互の教化啓発と切磋琢磨によ
つて、物心両面に互る住民生活の充実向上が図られ、
上意下達、下情上通が円滑に調整され、また各種の実行
申合せにより、住民の協同実践が自律的に確保されなけ
ればならない。
又常会を通ずる上意下達に当つては形式
に堕せず、下情上通に常つては放恣に流れず、精神主義
にのみ偏つて任民の実生活を遊離することなく、また
物質主義に傾いて精神的協和を欠くが如きことのないや
う、常に住民生活の実際に即し永続性有する健全明朗
な運営が図られねばならない。かくして常会は真に住民
錬成の道場たり、国民活動の源泉たる意義を全うし得る
のである。

3 各種団体との関係

 部落合・町内会は地域的綜合組織として、地域内のあ
らゆる公共的機能を達成すべき綜合目的を持つものであ
るから、その活動は、産業、経済、教化、警防、保健、
衛生、社会施設その他時局関係事務等住民の共同生活に
関聯する各般の事項に亙るべきものである。従つて必
要に応じ、部落会・町内会の組織に各種の部制を設ける
等の方法によつて区域内各種団体の機能の統合を図るべ
きである。
 市町村に濫立する各種団体自体の廃合の問題は、別途
に考究しなくてはならないが、これが為めには先づ部落会
及び町内会に於て可及的に実質的統合を図ることとし、こ
れによつて部落会・町内会の活動を一元的に強化すべきで
ある。殊に純農村に於ける部落会と部落農業団体との関
係に於ては両者の区域を統一し、人的組織の結合を図り
常会を共通ならしめる等、その調整を図ることが最も緊
要である。

4 中堅指導者の育成

 部落会・町内会の運営の如何は一に指導者の適否に存
するといつてよいから、その内部的指導力の充実を図る
ため中堅指導者の育成訓練に努めることが緊切である。
これがためには、区域内の信望ある指導的人物を積極的
にその活動に参加協力せしめること、また青壮年層より自
覚ある活動分子を育成訓練することが必要である。内務
省に於ては今回国費の助成により道府県を中心として部
落会・町内会の中堅人物の計画的育成訓練を図ることと
したのである。

六 市町村常会

1 市町村常会の構成

 市町村(六大都市にあつては区)に市町村常会(六大都市の
区にあつては区常会)を設置する。その構成員は市町村長     [ヽ]
(六大都市の区常会は区長)を中心とし、部落会長又は町
内会長(町内会聯合会あるときはその会長を以て代へる)及び
市町村内各種団体代表者その他適当なる者であるが、こ
の「適当なる者」は関係官公吏、市区町村会議員、学校職員
及び学識経験者等の中から選任することが出来る。各種
団体代表者その他適当なる者の選任の範囲は、なるべく
これを限定し会の構成を可及的少数とし、会議の形式化
を防止すべきである。構成員の選任者は市町村長であ
る。

2 市町村常会の任務

 市町村常会は、市町村の綜合協議機関として、市町村に
於ける各種行政の綜合的運営を図り、その他市町柑の綜
合目的を達成するため必要な各般の事項を協議するを以
てその任務とする。市町村は本来その全住民生活を包摂
する綜合的な行政団体でなければならない。しかるに実
際に於て市町村には幾多の団体が発生し、市町村の行ふ
行政は従来やゝもすれば法律自治の範囲に終始する観を
呈し、住民の実生活と遊離する傾向を生じてゐる。又今
日では市町村民の生活は、すべて国民生活として国家目
的に即し規律せらるべきものである。今回市町村に市町
村常会を設置したのは、その統制下に部落会・町内会等
の下部組織と市町村内の各種団体を置いて市町村の綜合
指導力を強化し、市町村の行政を真に住民生活に即応せ
しめると共に、市町村全住民を国家目的の遂行に協力せ
しめんとするに外ならない。市町村常会はかやうな市町
村の綜合協議機関であるから、法律上の権限に基づき市
町村の意思決定の議決機関たる市町村会とは、自らその
性質と任務を異にするものである。而して市町村常会は
その使命遂行に当り、行政の綜合的企画の樹立とその実
行上の連絡、各種団体相互間の連絡調整、部落会又は町
内会に対する指導連絡等を図るに十分活用せらるべきも
のである。なほ市町村常会は少くとも毎月一回開催する
ことを適当とする。

3 市町村内各種委員会の統合

 市町村常会の設置により従来市町村に設置された自治
振興委員会又は選挙粛正委員会等はこれを廃止するこ
ととし、その任務は市町村常会に於てこれを統合継承せ
しめることとした。
 その他市町村に設置される各種の委員会にして統合し
得るものはこの際成るべく実質上これを市町村常会に統
合し、市町村常会の綜合的機能を発揮せしめることとな
つた。

 む す び

 以上部落会・町内会等の整備と運営に関し概略の説明
を終つたが、要するにこれ等の隣保協同組織は法律的な
権義観念を以て運営さるべきものではなく、また形の上
の整備のみを以て満足すべきものではない。国民が挙つ
て国家奉公の至誠に燃え、真に職業や階級の墻壁(しやうへき)を超え
て協同生活の真義に徹底し、自らその育成に当るに至つ
て始めてその溌剌たる活動が促進されるものと信ずる。
この組織が真に国家の要求に適合し、国内新態勢に即応
して重大なる使命を果し得るや否やは、正に今後の育成
に対する国民の熱意如何に懸るものといはなければなら
ない。