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第二〇一号(昭一五・八・二一)
   新らしい経済体制          商工大臣 小林一三
   国防国家建設の必要         陸軍省情報部
   海鷲と重慶             海軍省海軍軍事普及部
   蔬菜と果実の配給統制        農 林 省
    −青果物配給統制規則解説−
   肥料統制について (下)       農 林 省
   御歴代天皇御追号の構へ方
   情報宣伝の新体制
   ソ連のバルト三国併合        外務省情報部
   特集 新支那読本(八)北支の特殊事情

 

国防国家建設の必要
                      陸軍省情報部

一、世界情勢の変転に基づく国防国家建設の必要と国防国家の歴史的発展
二、ソ聯と米国の国防国家要素と我が国の特質
三、政治に関する体制
四、経済に関する体制
五、文化に関する体制
六、その他

     一  世界情勢の変転に基づく国防国家建設の必要と国防国家の歴史的発展

 前世界大戦は前後五ケ年に亙る長年月を費し、一千万の犠牲と四千億に上る國帑を灰燼に帰せしめた大戦争であつた。しかし結局英仏側の勝利に帰したため、世界の覇権は依然英仏の手に留まつた。戦争の結末としては、ドイツの持つ貧弱な植民地を処分し、国際聯盟監督下に弱小民族国家が生れたが、これも英仏の前衛的役割のものに過ぎなかつた。当時わが国は日英同盟の関係もあり、聯合国側に属し、或ひは青島に、或ひはシベリアに兵を進め、相当の犠牲を払つたのであるが、最終の結果として赤道以北の旧独領たる南洋群島の外は何ものも得なかつたと云ひ得るのである。
 いづれにしても前世界大戦当時のわが国は、全く戦争景気に浮かれ、何等国家百年の大計を立て得なかつたばかりか反対にますます欧米文化の糟粕だけをなめて後日の苦労の種を作つたに過ぎなかつた。併しながら歴史の廻転は早く、今再びこゝに欧州戦争に際会した。我々としては、深く第一次戦戦後に於ける国民的怠慢を反省すると共に、第二次大戦に於けるドイツの活躍の由つて来るところに鑑み、皇国百年の計としてこの際何が必要かを考へ、この目的達成のための犠牲や労苦を厭うてはならない。
 今回の欧州戦争は前大戦と同様、独英の欧州争覇戦である。しかし今回はドイツの方が前回に比べて政治、経済、軍事等すべてに有利に展開してゐる。その重大な原因の一つは、二正面作戦となるべきソ聯と妥協した外交的勝利、強敵フランスを見事にやつつけた軍事的勝利とにある。これで今若し英本土への上陸作戦に成功したとしたならば、ヒトラーにはもはや不可能の文字がなくなるわけで、正にナボレオン以上の英雄といふこともできよう。今やドイツは制空権の伴はざる英の弱点に乗じて英本土に上陸作戦を敢行しようとしてゐるが、これは必ずしも不可能でないであらう。賢明なヒトラーとしては勿論成算が立たなければ始めないであらう。ドイツとしては、今では欧州大陸占領地域をしつかり国めて英本土に対する空襲と潜水艦を以てする海上封鎖戦を続行すれば、イギリス国民の受ける打撃は日一日と大きくなつて、英帝国の世界的地位をますます低下せしめることが出来る。
 世界歴史を繙いて見た時、およそイギリスくらゐ、永く世界の覇権を握り得た国はない。しかし今度は欧州戦争と東亜に於けるわが支那事変と相俟つて、大英帝国の世界支配体制を揺がせずば已まない大勢にある。栄枯盛衰世の習ひとはいふが、僅か二十年にしてかくも歴史が変転するかと思ふ時、うたゝ感慨無量なるものがある。
 而して戦後の平和は、昔のいはゆる自由主義に立脚する平和時代とちがつて、世界は強国と中心とする数個の国家群に分たれ、国家総力をますます昂揚して世界競争場裡に於て勝利と占めんと努めるものと考へられる。従つてこの強国なるものは従来の単なる一等国的観念より飛躍した綜合的国家つまり強国を中心とした数個の国家群が単位となるわけである。例へば欧州はドイツを中心としフランス、ベルギー、オランダ、ポーランド、ノールウェー等の国々がドイツ政府の計画に従つて軍事、経済等の一分野を担任することになるのではないかと想像される。
 凡そ一国の独立、永昌は、昔からいはれるところの富国強兵にある。今日では強兵富国であると云つた方が適当であらう。とかく、富国となれば弱兵となり、強兵となれば貧乏国であるといふやうに、うまく行かないのが世の中である。今こゝに国防国家の意義を考へる前に、先づ戦争に対する我々の従来抱いて居つた考へ方を再検討してみることが必要であると思ふ。
 従来我々は戦争なるものを、人類の平和生活を破壊する一時的な変体的な現象であると考へてきた。そして戦争準備は挙げて軍人に一任してゐた。勿論純作戦的なことは専門の軍人でなければ出来ないのであるが、それが近代戦の趨勢では武力戦争の規模がすばらしく大きくなつて、それに参加する軍の兵力、軍の科学的装備の数量が非常なものになつた。従つてこれに対する一国の産業力、延いては、経済力、人的資源の良否等が、武力戦の重要な要素となつた。一方戦争の手段方法も武力戦に呼応して経済封鎖戦や思想戦等が盛んに行はれる、複雑多岐な国家総力戦となつてきた。しかもそれはいざ戦争となつてから準備したのでは間に合はない。平時から一朝戦争になつた場合にも差支へないやうに、ちやんと準備しておかなければならないと云ふことが痛感されるやうになつた。現に今度の欧州戦争にドイツでは、今日あることを覚悟して平時からちやんと準備をさをさ怠りなかつたのであるが、フランスも英国もその準備に立遅れてゐたため、忽ちにして敗れ、或ひはだんだん負けさうになつて来てゐる。
 従つて、従米のやうに戦争になつてから、やれ動員だ、やれ戦時経済体制だといつて始めてゐては遅い。平時から戦時と同じやうに国家の状態を整備しておかなければならぬと云ふのが、最近国防国家論が台頭してきたわけである。
 戦争は一国を盛んにするか亡ぼすか、一国、一民族最大の運命を決するものである。従つてその教訓なるものも最大であつて、これが次の時代の人心を支配するやうになる。そこで今日までドイツが勝つた原因は何にあるかといふことが真剣に検討されるのである。
 それは戦争のため国家がよく整備せられて居つたことに帰着する。この教訓によつて各国共に次への世界情勢に対処するため、政治に経済に文化に、再検討を加へて来る傾向が生れる。即ち国防を主眼として国家態勢を有機的に統一整備することになる。これを人体に譬へると、身体の各組織がすべて一貫せる神経指揮の下に有機的に活動してゐるといつた具合にするわけである。
 今、国防国家の理想型とはどんなものかと考へてみると、先づ第一に軍備が、質量共にその国是遂行を保障するに充分なるものであること、戦争遂行を容易ならしめるための政治が一元化され強力化されてゐること、経済的には公益優先主義によつて組織され、国民生活が確保されるやうに運営されてゐること、資源的には自給自足が可能であること、工業的には軍需を充分に充足しうること、科学的には敵の意表に出で得る発明能力を有し、思想的には国民の精神を健全に発展せしめ得る資質を有することなど、広義国防の要素が立派に整備せられた国家が理想型であると云へよう。

   二 ソ聯と米国の国防国家要素と我が国の特質

 今、ソ聯邦に就いて見るに、彼は国防国家建設の創造者だけあつて、各種国防要素の充実整備に向つて邁進してゐる。実に第一次、第二次、第三次の五ケ年計画なるものは国防国家建設そのものに外ならない。その擁する陸軍軍備は数量に於て世界第一であり、装備の近代化も着々と向上してゐる。軍需資材は殆んどその領域に於て求め得られ、五ケ年計画遂行によつて軍需産業も今日では独立し得るに至り、思想は独特の共産主義教育によつて一応国民思想の統一に成功してゐると見なければならない。その特色の最たるものは、徹底せる専制政治によりスターンが最強の政権力を把握してゐることである。スターリンの意のまゝにソ聯は動かざるを得ないことである。しかし、そこに又幾多重大なる精神的欠陥がある。人間を機械化し物質化し人間の生活を無視し、わが家族国家の持つやうな強みを欠いてゐる。
 次にアメリカを見るに、彼はその富力正に世界第一、世界はアメリカのもののやうに考へてゐる。資源に富み、文化は発達し、科学は進み、国防は太平大西両洋のため極めて安定してわるにもかゝはらず、世界第一の海軍力を建造してゐる。国防国家的見地から見れば各種の要素に恵まれてゐる。
 わが隣邦ソ聯と米国は、共に国防国家的に見て今日までのわが国よりは物的方面に於て優れてゐたことは争はれない。しかし今後わが東亜共栄圏が確立されたならば、各種要素に於て彼等に優るとも劣るものはない。特に精神的要素の優越せることについては、今更ら茲に述べる必要はない。又ソ聯や米国の如き複雑せる民族問題は極めて少い。わが皇道に即する民族政策は着々成功しつゝある。朝鮮、台湾、満洲は既に皇化に霑ひ、今また新支那は建設せられんとしてゐる。この東亜民族が皇道を中心とし、東亜共栄圏を精神的に確立せしめることは、国防国家建設の見地から極めて重要なる基本事項であり、ソ聯、アメリカのブロックに対する唯一の強みといつてよい。
 皇国が企図する東亜共栄圏なるものは、東アジア大陸と西太平洋の陸と海とに亙るもので、これを防衛するのがわが陸海軍の任務であるといふことになる。
 この東亜共栄圏確立を脅かすものが、隣邦であるソ聯であり、米国であることも今さら説明の要はない。尚ほ英国もこれに加へなければならない。而してソ聯は世界第一の陸軍軍備を擁し、米国もまた世界第一の海軍軍備を整備しつゝある。この二大強国に対し、われわれとしては不脅威不侵略の陸海軍を整備することが絶対に必要である。
 一方ブロック圏内治安の確保のための守備兵力も要る。かく治安警備を遂行しつゝ、世界第一の陸軍と有するソ聯、世界第一の海軍力を有する米国、英国に対して、わが陸海軍力を充実しなければならないから並大抵のことではない。
 而して近代戦の特長は高度の科学的装備の充実で、わけても近代化された艦艇、飛行機、戦車、自動車、精巧兵器等の優良装備によるに非ずんば戦勝を確保し得ない。
 かくの如く東亜共栄圏確立を保障するわが軍備なるものは、その量に於て、その質に於て、劃期的なものを必要とすることになる。世界第一の陸軍力、海軍力を有するソ聯や米国と軍備拡充競争をしていつたならば、到底わが国力が耐へ得ないではないかとの論も起るわけであるが、それは軍備の自主性によつて自ら限度を見出し得る。即ちソ聯の極東に用ひ得る戦力、米国の西太平洋に指向し得る戦力は、その総戦力に比し著しく制限せられるととろの地の利がある。


   三 政治に関する体制

 皇国政治の根本理念は申す迄もなく、天皇親政とわが家族制度の特長を十二分に発揮し、完全な家族的生命体を構成することにある。皇国の憲法は勿論それを基本として制定せられたものではあるが、その運営は時日を経るに従つて漸次欧米自由主義文化の模倣に堕し、政治は統一性を失ひ、現下錯綜する内外の情勢には対応し得ないやうになつた。こゝに政治態勢を綜合強化し、敏速果断、施政奉行の実を挙げることが喫緊の要務となつた。今次欧州戦争に於て優秀なる軍備を擁するフランスの敗北した大原因はこゝにある。
 如何に科学が進歩するとも、軍備に於ける第一の要素が「人」であることに変りはない。兵員の素質能力、即ち体力、気力、兵業に対する能力の良否如何は、戦争勝敗の重要要素である。この点わが国は現在決して自慢は出来ない。これに対する国家諸般の対策、即ち国民体育の振興、医療の施設人口増加改革等緊急の要務である。


   四 経済に関する体制


 皇国経済根本の理念は、皇道に即する経済であることである。即ち万民をしてその処を得しむべきわが国ごゝろに即し、全国民が経済奉公に参加し得る制度組織でなければならぬ。中間搾取を除き、不労所得を排し、名実共に失業をなからしめ、挙国の民がその知識技能に応じて最大の能率を尽し、国の経済建設及びその運営に協力すべき体制を以て理想とする。
 わが国の経済が、明治以来欧米資本主義経済体制をとり入れ、企業の自由なる発展によりわが経済力が飛躍的に向上し、産業が隆々として振興してきたことは蓋ふべからざる事実である。しかるに世界の情勢が転変し、経済がいはゆる経済戦として広義国防の重要なる一単位を担当するに至つて、到底これを国民個々の自由に放任するを許し得ざるに至つた。即ち国防目的に副ふ如く国内産業を規制するの必要に迫られ、こゝにわが国が軽工業によつて立国しつゝあつたのを国防重工業国へと転換しつゝあるわけで、又貿易をしてその戦時に於ける情勢に適応せしめることも速かに実現しなければならない。戦時敵国となる公算多きものに貿易を依存してゐるが如きは、国防国家建設上の一大弱点たるを免れない。
 また国民の士気維持の見地から、国民の経済上に於ける負担は公平でなければならない。一方に於ては戦時成金が料亭、温泉地を横行してゐるのに、一方に於ては戦時経済統制のため、その日の生活にも苦しんでゐるやうな状況を放任して置くやうなことでは、敵国の思想戦攻撃の前にも弱点を作ることになる。利潤を抑制すれば企業心を抑へ、従つて生産力が低下するとは、経済心理として一応は肯定せざるを得ないが、これは近代人が自由主義に立脚する文物制度に教育され、生活してきたためであつて、この矯正こそ国防国家建設に於ける経済原理である。しかしこゝに利潤を抑制するといふ真意は、経営の合理化により、更に国家公益的に能率を向上すべきであるとの意であつて、いさゝかもマルクス流の考へであつてはならないことを附言する。
 次に一国の有する戦争資源の程度如何は、戦争遂行上の重大なる要素であることは、今さら喋々を要しないことである。特に近代戦は多大の物資消耗戦であるから、国防産業に要する資源、例へば石油、鉄、石炭、ゴム、錫、銅、燐等が絶対に必要となつた。そこでこれを自己の勢力範囲に於て獲得しなければ戦時の国防上に重大なる欠陥があるわけである。
 一国の工業力は戦争資材の補充上重大なる要素である。ドイツの空軍力といふものはその発達せる飛行機工業によるものである。この点わが国は極めて向上の余地が多い。例へば現下わが機械化部隊装備拡充の必要が論議されてゐるが、それは一にわが工業に左右せられてゐることを考へなければならない。わが国の軍備拡充はとりもなほさず国防工業の拡充に帰着することになる。

    五 文化に関する体制

 教育は人間をつくる。教育が一番大事であることは今さら説明を要しない。
 世界の現状維持国は教育を以てその国防の一つに利用してゐる。英国は、英語を世界に普及し自由平和に基調を置く政治、経済、文化を以て近世世界を経営してゐたと云つてもよい。
 わが国には英国系の教育を受け、英国的考への者が一番多かつた。前大戦後流行したデモクラシー思想もその一つであり、天皇機関説もその一つである。また一方にはソ聯の共産主義系のものもあつた。これでは国防国家の内部に大きな精神的欠陥があるわけである。従つて学問、学理を始め、宗教、哲学、科学、芸術、思想等に関してもわが国独自の指導原理が生れなければならない。これはわが国の学者に課せられた重大な使命である。
 また従来の学校知育偏重を速かに是正し、訓育に重点を置く東亜新秩序の戦士としての実用教育を向上することが必要となる。教育は、教育それ自体よりも環境の支配を受けることが極めて大である。幸ひ皇国内外情勢の激変せる今日、教育は学校のみならず社会的にも家庭的にも、この好機に乗じ根本的刷新を行はなければならないものと信ずる。
 近代戦は科学戦であることも今さら蝶々を要しない。イギリスが世界制覇に成功したのもその科学力であり、ドイツが今日の如く国力を快復した有力な原因も科学力である。あの粗笨なロシア人でも、今では小学生ですら自動車のエンジンの構造ぐらゐは日常会話に上つてゐるとのことである。この点わが国は大いに努力すベき余地が多い。科学教育の振興、研究機関の充実、科学者の優遇等国家として速かに対策を要する問題である。

     六 そ の 他

 支那事変に、わが陸、海航空部隊将士の決死的活躍によつてわが国土を冒さしめなかつたのはよいとして、国民に防空の体験を得しめなかつたのは、かへつて悪かつたかも知れない。将来戦に於ける空爆に対する我が国民の苦労は、蓋し想像を許さぬものがあらう。無制限に発展しつゝある大都市などは、如何に防空飛行機が活躍するとしても襲はれることは覚悟しなければならない。過般帝都にあつた落雷によつてさへ、多くの官衙が災厄を蒙つたのによつても空襲の災禍は想像に余りある。大都市防空は、わが国防国家建設上大いに努力しなければならない問題である。
 今日の防諜なるものは単に敵のスパイ防止のやうな単純なものではない。大きな外国の諜報網が張られて居つて、合法的にやつてゐるから全国民にそれが被(かぶ)さつてゐるわけである。
 たとへば或る外国の或る会社が全国に販売網を持つてゐるとする。その販売網から目と耳が出来てゐる。例へば今動員があつた、どこどこであつた、といふ情報を綜合すれば大体の見当がつくわけである。また出版物も有力な諜報資料となる。たとへば名所絵葉書のやうなものでも、空爆目標として整理研究されてゐるのである。
 かういふやうに防諜の見地からわが国の現状を見ると、大いに改善しなければならない点が多々ある。国民防諜が是非必要となつてゐる。
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 今や新体制がわが国現下の最大問題となりつゝある。われわれの祖父は明治維新の大革新を実行し、鎖国日本、封建日本を開放し、二十世紀の日本にした。われわれも祖父に負けることなき昭和の国防国家建設を完うし、以て皇國二千六百年代の歴史の上に輝かしき一頁を添へなければならないものと考へる。