皇国外交の指針 外務大臣 松 岡 洋 右
私は内外時局重大の際、図らずも外務大臣の重責を担ふこととなり、恐懼して居るのであります。この上は粉骨聖業を翼賛し奉り、一億国民協力のもとに、新らしい大東亜の建設に向つて、微力ながら努力し、国民諸君と共に現下の難局を乗切って行きたいと考へて居ります。
未だ具体的な個々の外交方策を闡明する段階には至つて居りませんが、茲に、既に政府に於て決定した基本的外交政策の大要を述べ、今後政府の採るべき外交方針につき、国民の理解を願ふと共に、強カなる支持を得んことを熱望して居ります。
現下我が国の外交方針は、先づ支那事変処理を中心に日、満、支をその一環とする大東亜共栄圏の確立を眼目としなければなりませぬ。是はやがてカ強く皇道を宣布し、公正なる世界平和を招来する所以でありまして我が国民と致しましては、この道程に横たはるところの有形無形一切の障礙は、断乎として之を排除するの覚悟がなければなりませぬ。
我が歴代内閣が、対外方針として支那事変の処理に関して、我が国に好意を寄せる国に対しては友好的態度をとり、これに反する国に対しては、これを排撃する態度に出でたことは、固より、当然のことでありますが、私は更に一歩積極的に我が方から進んで「友邦」を多くすることに努めたいと思ふのであります。即ち旧い秩序と観念とに捉はれて、東亜の新事態に対し殊更に目を蔽ひ新世界の創造を妨害する諸国に対しては、あくまで断乎たる態度を以て臨むことは申すまでもありませんが、東亜の新事態を認識し、自らも新らしき世界建設に邁進せんとする諸国とは、寧ろこちらから進んで積極的に提携を実現して参りたいと思ふのであります。
日満支をその一環とする大東亜共栄圏の確立に南洋の含まれてゐることは言ふまでもありません。従来、我が国は欧州戦争に対しては不介入の方針をとつて参つたのでありますが、この方針については差当り変更を見ることは無いものと考へます。たゞ今後の形勢如何に依つては、これを放棄するの已むなき事態に立至ることも予想されるのでありまして、従つて我が国の外交方策はあくまで国際的大変局を達観し、建設的にして、弾力性ある施策を構じなければならぬのであります。
以上の如く現下我が国の外交は、支那事変の処理を中心とした大東亜の建設を根幹とし、他の同調の諸国と相携へて、各国民、各民族が各々その所を得るやう、公正なる新世界の創建に資するやう実行されなければならないのでありますが、この大目的達成のため国民諸君は、更めて「外交は力である」ことをはつきり自覚され、速かに国内体制を一新し、国防国家の完成に最大の力を致されるやう望んで止まない次第であります。 |