内閣告諭

本日畏くも大詔を拝す、帝国は大東亜戦争に従ふこと実に四年に近く而も遂に聖慮を以て非常の措置に依り其の局を結ぶの他途なきに至る。臣子として恐懼謂ふべき所を知らざるなり、顧みるに開戦以降遠く骨を異域に暴(さら)せるの将兵其の数を知らず、本土の被害、無辜の犠牲亦茲に極まる。思ふて此に至れば痛憤限りなし、然るに戦争の目的を実現するに由なく、戦勢亦必ずしも利あらず、遂に科学史上未曾有の破壊力を有する新爆弾の用ひらるゝに至りて戦争の仕法を一変せしめ、次いで「ソ」聯邦は去る九日帝国に宣戦を布告し帝国は正に未曾有の難に蓬着したり。聖徳の宏大無辺なる世界の和平と臣民の康寧とを冀はせ給ひ、茲に畏くも大詔を渙発せらる。
聖断既に下る、赤子の率由すべき方途は自ら明かなり、
固より帝国の前途は之により一層困難を加へさらに国民の忍苦を求むるに至るべし、然れども帝国は此の忍苦の結実に依りて国家の運命を将来に開拓せざるべからず本大臣は茲に萬斛の涙を呑み敢て此の難きを同胞に求めむと欲す。
今や国民等しく嚮ふべき所は國體の護持にあり、而して苟くも既往に拘泥して同胞相猜し、内争以て他の乗ずる所となり或は情に激して軽挙妄動し信義を世界に失ふが如きことあるべからず、又特に戦死者、戦災者の遺族及び傷痍軍人の援護に付ては国民悉く力を致すべし。
政府は国民と共に承詔必謹刻苦奮励常に大御心に帰一し奉り、必ず国威を恢弘し父祖の遺託に応へむことを期す。尚此の際特に言すべきは此の難局に処すべき官吏の任務なり、畏くも至尊は爾臣民の衷情は朕善く之を知ると宣はせ給ふ。官吏は宜しく、陛下の有司としてこの御仁慈の聖旨を奉行し以て堅確なる復興精神喚起の先達とならむことを期すべし。
   
   昭和二十年八月十四日
          内閣総理大臣 男爵 鈴木貫太郎