第一九四号(昭一五・七・三)
支那事変三周年
畏し戦時下の御精励 宮 内 省
帝国の外交方針
世界情勢と事変処理の目標 陸軍省情報部
支那事変と帝国海軍 海軍省海軍軍事普及部
抗日支那軍の現況 陸軍省情報部
海軍航空隊の活躍 海軍省海軍軍事普及部
仏印国境の支那都市を語る 外務省情報部
満州建設勤労奉仕隊 文 部 省
特集 新支那読本(一)新秩序の黎明
世界情勢と事変処理の目標 陸軍省情報部
フランスの完全なる降伏によつてドイツは、臥薪嘗
胆二十二年、前大戦に於ける屈辱の汚名を見事に雪い
だ。この事実をまざ/\と見せつけられた吾々には、取
つて以て学ぶべき幾多の教訓がある。
欧州戦局は今や大英帝国三百年の運命を決する段階に
まで突き進んだ。ヒトラーが英本土に対し如何なる戦法
を取るか。極めて困難と予想される英本土上陸作戦を敢
行し、一挙に勝敗を決する即戦即決主義で行くか、将ま
た対英経済封鎖の長期戦をとるか。
戦局の前途はまだ予断し得ない。しかし英帝国が未曾
有の危機に直面し独伊を枢軸とする所謂全体主義国家が
欧州に今後活躍する時代が近づきつゝあるのではないか
と思はれる。
かくて世界は欧州大陸強国を中心とするヨーロッパ、
アフリカに亙る一大ブロックと北米合衆国を中心とする
南北アメリカの一大ブロック、ソ聯を中心とする一大
ブロック、これに対しわが日、満、支、南洋を包含する
東亜大ブロックの四大ブロック国に大別せられんとする
趨勢にあり、世界の新らしき秩序が現実の課題となつて
来た。
帝国の大理想は東亜に於ける新秩序の建設である。即
ちアジアの復興であり、興隆であり、繁栄である。その
東亜とは日、満、支を枢軸としこれに更に南方を包含し、
これによつて始めて世界のブロック圏に対して立ち得べ
き自給自足圏を確立し、帝国は東亜の指導国家たるの実
力を具備することが出来るのである。
この自給自足圏は別言すれば、帝国の国防圏である。
この国防圏を確保せんがためには、我々は前途に於て、
いくつかの民族との戦ひを常に覚悟しなければならない
であらうし、これなくしては東亜の新秩序建設も望めな
いのである。しかも東亜新秩序建設の目標は大であり帝
国の大理想達成の前途には大いなる試練が横たはつてゐ
る。この大事業は勿論一朝一夕で出来上るものではな
い。満洲事変はその第一段階であり、支那事変はその第
二段階である。南方政策実現はその最後的段階であると
いへる。
支那事変はこの目的達成の道筋の一大難関である。今
や漢民族四億の過半数は皇化に霑はうとしてゐる。即ち
汪牙ハ氏を中心とする支那新中央故府の下、新支那建設
は日に進み一方蒋抗日政権は日を経るに従つて潰滅に向
ひつゝある。蒋が何時参るかは時間の問題である。それ
は尚ほ二年や三年を要するかも知れない。しかし仮今蒋
が参つたとしてもわが企図する新支那建設のためには長
期に亙るわが援助を必要とする。かく考ふれば支那事変
の前途は、本質的には何処迄も長期持久戦であり長期建
設戦であることは、今もこれからも変りはない。帝国と
しては、支那事変を長期に亙つて処理するに足る国家態
勢を整備することが事変解決の最良の方策だといふこと
に決論される。
要するにわが国を繞る国際情勢は刻々に変転しつゝあ
る。これに対しよく情勢を洞察し好機を補足し断乎たる
方策を実現するの機会が切迫しつゝある。この千載一遇
の機を逸することのないためには何よりも先づ準備が必
要である。その準備は取りも直さずわが軍備の充実、国
内経済、思想体制の統一強化である。
第一九四号(昭一五・七・三)