第一六七号(昭一四・一二・二七)
  昭和十四年の国際政局回顧と展望  外務省情報部
  鉄道貨物輸送の実情       鉄 道 省
  北樺太利権企業の現況      商工省燃料局
  紀元二千六百年元旦の興亜奉公日を迎へる心構へ
  大祓の意義          内務省神社局
  事変第三年の海軍作戦      海軍省海軍軍事普及部
  敵の〃冬期攻勢〃       陸軍省情報部
  青少年義勇軍現地報告座談会
  バルカンの情勢          外務省情報部
  昭和十四年下半期総目録

 

大祓の意義 内務省神社局

 吾人の生活過程に於て、それが個人的にも社会的にも、
知らず/\の間に、幾多の罪過を犯し、又種々の汚穢に触
れることは避け難い。故に時折これらの罪穢(つみけがれ)を払ひ去つて
自己とその環境を浄化する必要がある。殊に我等日本人
は清明心を尊び之に反する汚濁の念を厭ふことが甚だし
いから、時々この汚濁の集積から派生する罪穢を払ひ去る
ことを工夫し修行して来たのである。これがいつの世から
とも知れぬ昔から行はれ来つた禊、祓の習俗であり、小
さな場合には一個人として、大せな場合は国家として、公(おほやけ)
に私にこれを行つたのであつた。その公であつで国家的な
場合を、特に大祓といつたのである。
 従つてこの大祓には、臨時の大祓もあれば、年々時を定
めて行はれた恒例の大祓もある。後者が国の制度として確
立したのが、即ち六月、十二月の二季の大祓であり、はや
ん大宝令に規定され、。朱雀門前の広場を式場として、親
王以下在京の百官男女を会して行はれたので、これむまた
百官の大祓とも称したのであつた。
 今日の宮中の大祓は、この二季の大祓を明冶初年に復興
されたものである。即ち古の朱雀門前の大祓であり、百
官の大祓であるので、在京の各庁、勅、奏、判任官の総代は勿
論、皇族、王族、公族の総代も参集せしめらるゝのである。
但しこの場合召し集へらるゝものは単に官庁といふ狭い範
囲の人員を代表するのではなく、朝廷に仕へまつる天下の
万民を意味するものであることは、昔も今も変らない。
 かくてこの大祓は、過去の半年間に集積せる万民全体の
罪といふ罪、穢といふ穢を根こそぎに除き去つて、清き明
き御民われの本質を発揮顕現するところにその意義が存す
るのである。
 尚ほ、この百官の大祓の儀に先(さきだ)つて、当日宮中に於ては、
節折(よをり)の御儀を執り行はせられる。この節折の御儀も、大祓
と同じく上代より宮中に行はせらるゝ御神事であるが、
その御趣旨は 天皇陛下の大祓の御儀とも拝せられ、聖明
にます 陛下がこの儀を親しく執り行はせ給ふことは、全
く民のため世のためを軫念あらせられての御修行に外なら
ずと恐察し奉るのである。
 さて今、宮中大祓式の御模様を洩れ承るに、祓所は神嘉殿
の前庭を以て之に充(あ)てられ、先づ節折の御儀畢(をは)らせられて
後、午後三時掌典長以下着床、次いで各庁、勅、奏、判任官の
総代各一人着床、ついで皇族、王族、公族総代各御一人御
着床、次に掌典長、掌典を召して祓の事を命じ、掌典案前(あんぜん)
に進みて大祓詞(おほばらいひのことば)を宣読(せんどく)し、
次に掌典大麻(おほぬき)を執り諸員を祓
ひ清め終つて、皇族以下次々退下(たいげ)せらるゝ趣である。
 かやうにして宮中に於ては、節折の御儀に続いて大祓
が行はれて、全国民代表のいはゆる百官の公武の祓が執行
せらるゝのであるが、更に当日、神官始め全国の神社に於
て同様の儀が執り行はれてゐる。官国幣社以下神社の大祓
式には地方官が参列することになつて居り、氏子、崇敬者等
もまた之に加はり、宮中の祓式に呼応して、全国一斉にこ
の行事を勤行しつゝあるのである。而してこれ等の式次第を
通じて最も肝要なのは、いはゆる大祓詞の宣読である。こ
の詞の成立は、大祓の制度の確立とともに上代に起原(きげん)するも
ので、その内容の雄大にして詞句の荘重なる、上代文学の
最優第一のものと考へられてゐるが、要するに、我が皇國
の淵源を反省し皇國民の重大責務を自覚すると共に、この皇
國に、この皇國民に、暗き汚き罪穢の如きものがあつてはな
らぬから、上代からの式法に従つて、天神地祗の御照覧(せうらん)の
下に、祓の行事を修すれば、其処に全く清新なる國と民と
が生れ出ることを述べたものであるが、しかもこの詞の普
通の神祭に奉読する祝詞とかはつてゐる処は、それが、いは
ゆる宣読(参列の諸員に宣(の)り聞かす形式)されることで、この
行事に参加するものの総てが、この詞の内容をしかと自覚
体認することを求められてゐるのである。
 来るべき昭和十五年は輝かしき紀元二千六百年に相当し、
国家進展の一大時期を劃する年である。されば本月の大祓
は公式に行はれる宮中故びに神社の儀を通じ、我等は常に
もまして真面目にこれに参ずると共に、更に広く深きを期
するために、官民の間に於て、適当の方法を以てこの大
祓の意義の体得と徹底とに努めなければならぬと思ふ。