銃後の諸賢へ
第○艦隊司令長官 日比野正治
曠古の聖戦に際し、第一線に御奉公せしめられて居るこ
とを、何よりの光栄に存ずると共に、責任の重且つ大なるを
痛感し、麾下一同と共に、ひたすら任務の遂行に精進致して
居る次第であります。
顧みれば聖戦既に二歳余、挙国一致の努力により、偉業の
歩武次第に進み、隣邦の民亦御稜威を仰ぎて我に協力提携を
なさんとするもの漸く多きを加へつゝあることは、当然のこ
ととはいへ、まことに同慶の至りに堪へませぬ。かくして我
等の前途には、赫々たる成功の光明が輝いて居ります。我等
は今後尚ほ幾多の難関荊棘を覚悟せねばならぬこと、固より
でありますが、過去を以て将来を推せば、挙国一致の力は何
物をも問題とするに足りませぬ。唯々油断なき準備と真摯な
る努力が絶対肝要と信ずるのであります。
今や欧州の天地亦風雲愈々急を告げ、動乱の及ぶところ真
に推測し得ざるものがありますが、皇国の進むべき道は既に
定つて居ります。弱きを侮らず、強きを恐れず、飽くまでも
正義を守り、常に待つあるの備へを似て興亜聖業の達成に邁進
するのみであります。
前線にある我等は、万人一心必勝を信じ、銃後同胞の同情
と激励とに感奮しつゝ、日夜聖戦に微力の限りを致して居り
ます。而してこれが為め護国の華と散つた幾多の英霊、並び
にその御遺族の方々に対しては、痛恨陳ぶるに辞なく、唯々
今後一層自励砕身以て英霊の偉績を汚さざることを誓ひ、
せめても在天の霊を安ぜんと念じて居る次第であります。銃
後同胞各位、希くは皇国の為め、倍々自重自愛、今後とも我
等に協力せられんことを切望して止みません。
(因みに日比野司令官は、先般帰還されました。
これは在任当時に寄せられたものです。)