第一四四号(昭一四・七・五)
  実施された国民徴用令
  国民徴用令の実施に就いて     厚 生 省
  民間航空の現状と将来        航 空 局
  軍事保護院の設置について     軍事保護院
  ダンチヒ問題           外務省情報部
  精動の頁

国民徴用令の実施に就いて
                     厚   生   省
   一 はしがき

 国民徴用令は六月十四日首相官邸に開かれた国家総
動員審議会に於いてその要綱を審議決定せられ、これに
基づき七月四日閣議決定を経て同八日公布せられ七月十
五日より実施せられた。本制度は国家総動員法(以下法
と称す)第四条の規定に基づくものであるがそれには左
の如く規定してゐる。

 国家総動員法第四条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要ア
    ルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ帝国臣民ヲ徴用シテ総動
    員業務ニ従事セシムルコトヲ得但シ兵役法ノ適用ヲ妨ゲズ

 即ち戦時中は人的資源の統制運用上必要あるときは
勅令の定むる所に依り、国民を徴用して戦争途行に必
要なる業務に従事せしめることができる旨を明らかにし
てゐる。
 元来この法第四条は昭和十二年国家総動員法の制定に
当り、始めて登場して来たものではない。大正七年制定
せられた軍需工業動員法には政府が戦争目的途行のため
に兵役に在る者又は在らざる者を召集又は徴用して国
又は国の管理する施設に於いて行ふ業務に従事せしめ得
る規定があつた。これが昭和十二年国家総動員法の制定
と同時に軍需工業動員法は廃止となり法第四条となつて
現はれたのである。以上の如く歴史は古いのであるが、然
し真に徴用を必要とする時局にいたらなかつたためか、
国民の注意をひくことが比較的少かつたやうである。と
ころが昭和十二年国家総動員法が議会に上提されるやこ
の条項をめぐつて相常活溌な議論が行はれ、今回勅
令の制定に当つてもまた相当の論議があつたのである。
 次に法令の内容についてあらましを説明しよう。

  二 徴用は何故必要か

 支那事変勃発以来軍需生産の確保、生産拡充等の為め
に労務の需要が急激に増加したが、一方、中堅勤労青年
が多数第一線に動員されるといふやうな原因もあつて要
員の充足が次第に困難となつて来た。即ち、かつては募
集人員に対する応募人員の割合は二倍以上もあつたもの
が最近は求人数の増加に対して応募数の激減を見るにい
たつた。特に技術者や経験工に関しては不当な引抜で
もやらなければ自由応募の方法では殆んど充足出来ない
やうな状態に立ちいたつたのである。しかもこれは、職
業紹介機能を充分に発揮して軍労充足第一主義を標榜
して万全の努力を払つて来た上での結果なのだから、こ
の事実によつても自由意思を前提とする方法がだん/"\
行き詰つて来たことが実証される。しかも他面、労務者
の需要は絶対的となつて来たので遂に法第四条の発動を
見るに至つたのである。
 法第四条は、戦時体制整備の意味に於いても極めて重
要な意義を零するのであつて、いはゆる観民動員の中塚
を有する規定である。
 欧州大戦当時ドイツの祖国勤務補助法、イギリスの徴
用法等は銃後動員の一例であるが、現在に於いでもドイツ
の如きは国民徴用に関する整備された法令を有してゐる。
 以上述べたやうに、国民徴用令は現に国民を徴用し
て総動員業務に徒事せしめる必要の起つてゐることと
銃後動員の一翼として戦時体制の整備強化を図るとい
ふ意味で制定せられたのである。



   三 徴用は如何なる場合に
     行はれるか

 徴用は、職業紹介所の職業紹介、その他募集の方法に
よつては所要の人員を得られない場合に限つて行はれ
る。即ち、原則として、要員の充足は職業紹介、その他
自由意思を前提とする募集の方法によるのである。しか
し労務資源が涸渇し、しかも他面重員の充足を絶対に必
要とする場合には、かゝる自由意思を基調とする方法では
到底国家の要求を充すことができなくなる。この場合に
於いて始めて徴用といふ強制権が発動するのである。
 しかし職業紹介または募集により、要員の充足が困難
なすべての場合に徴用が行はれるのではなく、国の行ふ
総動員業務に必要な要員が、右の方法では得られない場
合に限り徴用が行はれるのである。
 労務の適正な配置のためには、国家総力戦の立場から見
るならば、軍管理工場や民間工場等で要員を充すのに困
難な場合にも、徴用の手段がとられてしかるべきであら
う。大正七年の軍需工業動員法は民間工場にも徴用がで
きる旨規定してあつたのである。しかし徴用は臣民の
自由を拘束するきはめて重要な意義をもつ制度であるか
ら、さし当つて緊要不可欠の要求に応じうる程度の所か
ら実施すべきである。従つて今回は国の行ふ総動員業務
に従事せしめる必要があり、かつ自由募集で所要人員を
得られない場合に限つて行ふこととしたのである。
 但し緊急にして自由募集の暇なき場合、または軍機上
職業紹介または募集のごとき公表的方法によることを適
当としない場合には、職業紹介、または募集等の前提な
しに徴用を行ひうることとなつてゐる。


   四 徴用さるべき者の範囲

 徴用は国民職業能力申告にによる要申告者に限りこ
れを行ふことになつてゐる。
これは国民登録が徴用
を前提とした制度であり、現在徴用の対象となるだら
うと予想せられる者は、だいたい要申告者の範囲に含ま
れて居り、また登録によつて予めその資格や能力の調
査ができてゐなければ、徴用を円滑正確に行ふことが
きはめて困難なので一応この範囲に限定したのである。
国民登録の要申告者については、国民職業能力申告令第
二条に左の如く定めでゐる。(週報第一一八号本年一月十八
日号参照)
 一、内地、朝鮮、台湾、樺太または南洋群島に居住す
  る男子たること
 二、年齢十六年以上五十年未満の者たること
 右の条件を備へて居つて、更に左の各号の一に該当す
る者たること、
 一、本令施行地内ニ於テ引続キ三月以上厚生大臣ノ指定スル
  職業ニ従事スル者
 二、引続キ一年以上前号ノ職業ニ従事シテソノ職業ヲヤメ、
  其ノ職業ヲヤメタル日ヨリ五年ヲ経過セザル者
 三、厚生大臣ノ指定スル大学、専門学校、実業学校ニ於テ、
  厚生大臣ノ指定スル学科ヲ修メ其ノ学校ヲ卒業シタル者
 四、厚生大臣ノ指定スル技能者養成施設ニ於テ、所定ノ課程
  ヲ修了シタル者
 五、厚生大臣ノ指宏スル検定若ハ試験ニ合格シタル者、マタ
  ハ厚生大臣ノ指定スル免許ヲ受ケタル者
 六、其ノ他厚生大臣ノ指定スル者
 徴用の対象となるべき者は、右の要申告者であつて現
実に登録した者といふのではない点を注意すべきであ
る。
 要申告者にして登録しない者の中には左記の者があ
る。
 一
要申告者に該当して未だ申告期限到来せざるにより登録
  を了せざる者
 二、国民職業能力申告令第十一条で申告を免除されて居る者
 三、申告を怠り又は忘れて居る者
 右三者は登録せずとも要申告者であるからして徴用の
対象となる。特に三号に該当する者は、意識的に登録を
怠つて徴用を免れることがあつてはならないので登録な
くとも徴用するのである。寧ろかへつてかゝる者に対
しては国民負担の公平を期する意味から断乎たる処置に
でる必要がある。
 登録せざる要申告者中、二号に該当する者は本令で徴
用するを適当としない者であるから、国民徴用令第二十
一条で本令により徴用せざる旨規定してゐる。

第二十一条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ之ヲ徴用セズ
 一 陸海軍軍人ニシテ現役中ノモノ(未ダ入営セザル者
  ヲ除ク)及召集中ノモノ(召集中ノ身分取扱ヲ受クル者
  ヲ含ム)
 二 陸海軍学生生徒(海軍予備練習生及海軍予備補習生
  ヲ含ム)
 三 陸海軍軍属(被徴用者ニシテ之ニ該当スルニ至リタ
  ルモノヲ除ク)
 四 医療関係者職業能力申告令ニ依リ申告ヲ為スベキ者
 五 獣医師職業能力申告令ニ依リ申告ヲ為スベキ者
 六 船員法ノ船員、朝鮮船員令ノ船員及関東州船員令ノ
  船員
 七 法令ニ依リ拘禁中ノ者

 また第二十二条に於いては理論上は、国民登録の要
申告者である限りは徴用の対象となるのであるが、人的資
源の統制運用上徴用を避ける方が適当なので特別の必
要ある場合の外は徴用しない者を規定したものである。

二十二条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ特別ノ必要アル
 場合ヲ除クノ外之ヲ徴用セズ
 一 余人ヲ以テ代フベカラザル職ニ在ル官吏、待遇官吏
  又ハ公吏
 二 帝国議会、道府県会、市町村会其ノ他之ニ準ズベキ
  モノノ議員
 三 総動員業務ニ従事スル者ニシテ余人ヲ以テ代フベ
  カラザルモノ

 特別の必要とは運用上徴用の対象とせざることを意味
するが、右に列記する者でも国務大臣や帝国議会の議員
と市町村会の議員や民間工場に働く者とを同視すること
はできない。従つて運用上、この中にはある場合には徴
用せられる者がないと断言はできないのである。
 尚ほ徴用中要申告者に該当しないやうになつた者を引
続き徴用する必要のあるときは、之を引続き徴用ができ
ることになつてゐる。


   五 徴用手続

 総動員業務を行ふ官衙(陸海軍の部隊及び学校を含む以下
之に同じ)の所管大臣から、しか/"\の人員を必要とする
が、職業紹介や募集の方法では何人だけはどうしても充
足できないから徴用して貰ひたいと請求して来る。厚
生大臣はその請求を見て徴用によるのが妥当と認めると
きは、徴用命令を発して地方長官に通達する。地方長官
は徴用命令の内容にしたがつて徴用せらるべき者を決
定し、これに対して徴用令書を発しこれを交付するので
ある。この徴用手続の責務をだいたい述べると次の通
りである。
 登録カードに基づいて職種別、技能程度別、且つ年齢
や扶養家族の数や現に従事する業務の重要性に基づき、
徴用せらるべき者の連名表を職業紹介所で平素から調製
しておき、その連名表に基づき員数表を知事及び厚生大
臣の許に提出しておく。これに基づいて厚生大臣は、全
国的労務構成を見た上でブロック別、或ひは府県別割当
をして徴用命令を発するのである。
 この命令の中には徴用さるべき者の資格、徴用すべか
らざる者、一就業場より徴用すべき比率その他必要なる
事項はすべて記載する。この命令が地方長官に通達され
ると命令の内容に従つた規準に基づいて職業紹介所長
に連名表の写を提出せしめる(平素から予め提出さしておく

     (クリックで拡大図)
場合もある)。これに基づいて知事が徴用予定者を定め、
令第十条の規定によりその者の出頭を求めて(職業紹介所
に出頭を求める場合もある)身体検査をなしまたは事情を
聴取する。この際陸海軍等より係官が立合ふ場合もある。
 かくて知事が厳正なる選定をして被徴用者を決定し、
徴用令書を作成して職業紹介所長、または市町村長にこ
れを渡し、そこから使丁を以つて本人に交付される。本
人不在の時は戸主、世帯主、妻又は使用主等に渡して本
人へ交付せしめるといふ順序になるのである。
 さてそれでは同じ技能を有する者が多数ある場合にど
うして具体的に被徴用者を決定するかといふと、これは
極めて大事なことであつて、令第九条は被徴用者を決
定する場合に斟酌すべき事項を明記してゐる。
 即ち、その者の居住及び就業の場所、職業、技能程度、
身体の状態、家庭の状況、希望等を斟酌するのである。
さらに明文はないが、人的資源運用の本来の目的からし
て産業の重要性といふことも充分考慮しなければならぬ
ことはいふまでもない、大体の方針としては、
一、現に技能をもつてゐてその技能を活用してゐない者
 を活用するやうにする。
一、特種技能をもつてゐる者を徴用する場合は、その技
 能をいかすやうな仕事にのみ徴用する。
一、不急産業からさきに徴用する。不急産業でもその産
 業がたち行かなくなることのないやうに考慮する。
一、身体強健で系累の少い者をさきにする。
 その他徴用先やその仕事の性質等に応じ、徴用さるべ
き者について充分考慮をはらつて徴用の順位を定める
のである。


   六 出頭の変更及び徴用の取消・
     変更・解除

変更・取消  徴用令書の交付を受けた者が疾病、傷
痍、天災地変、伝染病のための交通遮断その他避くべからざ
る事故により、指定の日時及び場所に出頭できないとき
には、徴用令書を発した地方長官にその旨届出でなけれ
ばならぬ。この届出をしないで無断で出頭しないと、法
第三十六条第一号の徴用に応じない者として一年以下
の懲役又は千円以下の罰金に処せられる。
 この届出は現行規則第九条の規定により証明書を添附
してなさなければならぬが、出頭の日時が迫つて急を要す
る場合はとり敢へず電報なり電話なりで事情を申出る必
要がある。この届出があつたときは地方長官は事情を調
査し或ひは出頭の日時及び場所を変更し、或ひは徴用の
取消をなすのである。この場合には出頭変更令書または
徴用取消令書を交付する。徴用令書を発した後、右の届
出によらず官の都合で出頭の日時または場所を変更し、
或ひは徴用を不要とする場合が起るときは、一般の徴用
変更または徴用解除として取扱はれる。
 徴用後被徴用者は徴用令書で指定せられた場所で官衙
の長の指揮を受けて総動員業務に従事せしめられるの
である。しかし種々の都合で、あるときは就業の場所を
変更、あるときは類似の他の職業に従事せしめる必要が
生ずる。この場合、一々徴用を解除して更めて徴用を行
ふこととすることは、非常に不便であり、また業務その
ものにも影響する所が尠くない。そこでかゝる場合は
徴用の変更を所管大臣から厚生大臣に請求できることと
したのである。その請求に基づいて厚生大臣が徴用変更
命令を発することにしてゐる。
 この規定は他面、被徴用者を使用する官衙で勝手に
徴用の内容を変更することを禁じてゐるのである。元
来、徴用する際は徴用の必要(一定の場所に於いて一定の業
務に一定期間従事せしめる必要)に応じてその人の事情や、
産業の事情を考慮して被徴用者を決定したのであるか
ら、これを自由に変吏することは、使用する官庁の側
からは好ましいことであつても、本人の立場と人的資源
の統制運用の立場から見るならば決して感心できぬこと
である。例へば居住地で勤務ができるといふので、系累
が多く家庭から離れにくい人を徴用しておいて、それを
何時の間にか満洲で就業する様に変更したといふ様なこ
とは穏当を欠くのであつて、そこでさきに述べたやうな相
当厳格な手続を経る必要がある訳である。
解 除 次に徴用の解除であるが、徴用された
者は徴用の期間が満了した時又は令第二十一条の規定
に該当するにいたつた場合は、徴用は終了し当然に解除
になる訳である。また引つゞき徴用する必要ある場合
のほか、国民登録の要申告者に該当しなくなつた場合に
も徴用は当然解除になるのであるが、然しかやうに当然
に徴用の解除にならぬ場合(徴用期間内)でも、その者
が疾病その他の事由に因り総動員業務に従事しにくくな
つたとき又は従事せしめる必要がなくなつたときには、
所管大臣から徴用の解除を厚生大臣に請求しなければな
らぬ。この請求があつたとき、又は請求がなくとも厚生大臣
必要ありと認めたるときは徴用解除命令を発するのである。
 また本人が疾病傷痍その他已むを得ない事由に因つ
て総動員業務に従事し難いときはその事を所管大臣まで
申出で所管大臣から厚生大臣に徴用解除の請求をなすこ
とを求めることが出来るのである。徴用変更や徴用の解
除は厚生大臣の命令に依り地方長官から令書を発し、こ
の令書は被徴用者を使用する官衙を経由して為されるの
である。(但し被徴用者の就業の場所が外国なる場合に
は厚生大臣から令書が発せられる。)


  七 徴用された者の身分・給与・
    旅費

身 分 徴用とは国民をして強制的に一定の作
業に従事せしめることであつて、その業務が現在行つ
てゐる業務であることもあらうし或ひは他の業務である
こともあらう。また強制的に労務に従事せしめられる結
果、その業務が或る特定者の経営に属する場合にはその
経営主体との間に使用従属の関係が起る場合もあり、
また自営業者をその業務に強制的に従事せしめる場合に
はたゞその業務を行ふことを廃止し得ないといふだけの
結果に終る場合もあるであらう。何れの場合にでも徴
用そのものは強制的に一定作業に従事せしめる行政処分
であつて、そのこと自体には何等特定の身分の設定を内
容としてゐないのである。たゞそれが適用される社会関
係の実体の差異に因つて反射的効果として或ひは使用関
係が起り或ひは自営義務が発生するのである。
 国民徴用令の場合は国の行ふ業務に限定せられてある
から徴用中は官衙の長との間に使用従属の関係が起
り、その指揮に従つて業務に従事しなければならぬので
ある。若し指揮に従はなければ「業妙に従事せざる者」と
言ふことになるのである。
 従つて以上の如き徴用の法律上の効果が阻害せられな
い限りその上に如何なる身分が加はらうとも何等差支へ
ないことである。即ち徴用処分があつたからといつて徴
用前の身分関係が当然に消滅するわけでもなく、また徴
用中に徴用の効果と矛盾しない身分が新たに加はつて
もいゝのである。
給 与 そこで徴用した場合に従前の身分をど
うするか、またその後如何なる身分を与へるかといふこと
は徴用そのものの法律上の効果の問題ではなくて政策の
問題となる。政府が徴用した者を処遇する方針としては
だいたい左友記の如く考へられてゐる。
 官吏を徴用したときは、現官のまゝ応徴せしめ俸給
は徴用先の官衙で支払ひ、徴用された従前の官庁に於い
ては定員外として取扱ふ。
 徴用期間中は恩給年数は当然通算せられ、若し戦地等
に派遣せられるときは恩給法の定むる所に依つて一定年
数が加算せられる。
 若し徴用先の官庁へ転任せしむることが普通の手続を
経て行はれると、その結果従前の官庁の身分がなくなる。
官吏以外の者についても応召者に準じて現在の身分を消
滅せしめないで応徴せしめ、徴用期間を勤続年数に通算
せしめる。唯応召者と異る処は徴用先で相当の給与を支
給するから、稀な場合を除いて差額支給といふことは官の
場合も民の場合でもあまり重要でなくなるだけである。
 現在応召した場合には、文官については明治三十七年
勅令第二百六号(文官ニシテ陸海軍ニ召集セラレタル者ノ俸
給支給ニ関スル件)に依つて差額支給を為すこととなつて
ゐるが、徴用の場合は明治三十八年勅令第四十三号(戦
時又ハ事変ニ際シ臨時特設ノ部局又ハ陸海軍ノ部隊ニ配属セシ
メタル文官補闕ノ件)に依り定員外として処理する(陸海
軍以外の官衙に徴用せられたる場合については、目下勅令制定
について準備中)。
 また現在応召した公吏については、明治三十七年勅令
第二百六号に準じた条例を制定して差額支給の途を講
じてゐるが、徴用の場合は差額支給については規定を要
しないが、明治三十八年勅令第四十三号に準じた条例
を制定せしめる必要がある。民間から応召した者につい
ても官公吏に準じた処遇をなし、現職の儘とし差額支給
の意味で手当を支給してゐるのを普通とする。しかし徴
用の場合は手当首支給は減収の場合でなければ必要がない
けれども、現在の雇傭上の身分関係は存続せしめ徴用期
間を勤続年数に加算せしめる必要があるのである。
旅 費 徴用せられる者には旅費を支給する。徴
用の適否を判定するために、地方長官又は職業紹介所長
が徴用候補者の出頭を求めた場合は徴兵旅費規則に
準じ、徴用令書を発したる後は召集旅費規則及び各省の
旅費規則に準じて支給する。徴用を解除せられて帰郷
する場合にも旅費の支給を受ける。
 出頭の場合の旅費については、徴兵召集の旅費に準じ
て市町村から一時繰替支弁をうけうることとなつてゐる。


   八 徴用解除後の復職

 徴用を解除せられた者の復職については、現官又は現
職の儘応徴した者は解除と共に従前の官庁又は職場で
原職に復帰すること当然であつて、この転は応召の場
合と全く同様である。また徴用の際徴用先官衙に転任
し、そこの官吏又は雇傭人として奉職することになつ
てゐる者であれば、徴用の解除があつても当然徴用先か
ら退職し又は解雇となることはない。
 そこで徴用の際已むを得ざる事情で、従前の勤務先を
退職又は解雇となつてゐて、徴用先で官吏又は雇傭人と
しての身分を得てゐない場合が問題となるが、この場合
でも応召者と同様原職復帰を原則とし、原職復帰ができ
ないときは優先就職を斡旋する等、入営者職業保障法に
準じた行政的処置を講ずるのである。
 若し行政的処置を以つて所期の目的を果し得ないやう
な場合には、徴用解除者の復職保障につき別個に立法
の方法が研究せられることになつてゐるのである。


   むすび

 以上は国民徴用令の大体の内容であるが、徴用は銃後動
員の最も重要なる制度の一であるから、徴用せられる者
も応召と同じ覚悟を以つて之に応じ、之を送る者も応召
者を送ると同じ気持を以つて行を壮にすると共にその
家庭に対しては応召家族と同じ様な温い慰安をなすベ
きである。