第一一八号(昭一四・一・一八)
  時局の新たなる段階と国家総動員法の発動  企 画 院 
  国民登録制             厚 生 省
  敵都重慶を反復空襲す       陸軍省情報部
  列国海軍軍備充実の情勢      海軍省海軍軍事普及部
  英伊会談をめぐる欧州政局     外務省情報部
  最近公布の法令          内閣官房総務課
  文部省推薦図書・官庁編纂図書だより

 

時局の新たなる段階と国家総動員法の発動  企 画 院

 支那事変は広東武漢攻略を機として長期建設の時期に入つた。
 帝国がこの新たなる段階に於て過般の政府の声明に基づき、今後東亜新秩序の建設といふ重大使命を達成する為めには、軍備の充実と綜合国力の拡充とを不可欠の要件とする。
 蓋し対支武力戦の規模は逐次拡大せられ、我が兵力及び軍需物資の動員は遙かに日露戦争を凌駕してゐる。この一大武力戦を今後と雖も猶ほ続行して、能く容共抗日政権の徹底的潰滅乃至治安の確保を貫遂する外、東亜に於て第三国をして、寸毫も乗ぜしめる余地のない兵力を整備充実することは、今事変の終局の目的たる東亜に於ける新秩序を建設する為めの基礎的条件をなすのである。
 而かも近代軍備の充実はそれ自体を以ては不充分であつて、必然にその基礎根柢として人員、物資、資金等の各方面に亙り綜合国力の飛躍的増強が之と相伴はなければならぬ。
 即ち、軍需産業乃至重要基礎産業の生産力の拡充を根幹とし、これと併行して貿易を振興せしめることが根本であつて、国防経済の確立は之に依り始めて完きを期し得るのである。
 かくの如く国防経済の確立を図ると共に大陸建設の宏業を完成し今次聖戦の終極の目的を達成せんが為めには、吾々国民は余程の覚悟と用意とを要するのであつて、如何なる苦難をも克服して一路目的の遂行に邁進しなければならないのである。
 軍備の充実にしても綜合国力の拡充にしても先づ以て限りある人員、物資、資金等を最も有效に利用することが前提であり、之が為めには有形無形の国家の総力を右の目的達成の為め一元的に統制運用し得るやう戦時態勢の強化に万全を期することが極めて必要である。
 而かも一方、一年有余に亙る事変の結果必要資材供給の為め輸入力の現在及び将来について考案しても、また国内物資貯蔵の現状について考慮しても、国家総力の最も有效な総合的利用の必要性は愈々緊切となるのである。
 この国家総力の最も有效な総合的利用を確保するが為め、国家総動員法中関係条項を発動せしめることは真に必要已むを得ざる実情に在るのであつて、曩に勅令の制定又は要綱の決定を見た案件の外に逐次必要なる勅令の整備を図つてゐるのである。
 今すでに制定公布せられた勅令及び国家総動員審議会に諮問せられ其の可決答申を見た勅令案要綱を示せば次の如くであつて、之に依り差当り必要なる国家総動員法発動の態勢が整つた次第である。

勅令及び勅令案要綱件名 摘要 国家総動員審議会付議
1 学校卒業者使用制限令
   (昭和13年8月24日勅令第599号)
第6条関係 昭和13年8月10日
2 工業事業場管理令
   (昭和13年5月4日勅令第318号)
第13条関係  
3 医療関係者職業能力申告令
   (昭和13年8月24日勅令第600号)
第21条関係 昭和13年8月10日
4 国民職業能力申告令
    (昭和14年1月7日勅令第五号)
 〃 昭和13年12月5日
5 総動員補償委員会規定
   (昭和13年7月2日勅令第474号)
第29条関係  
6 国家総動員審議会官制
   (昭和13年5月4日勅令第319号)
第50条関係  
7 従業者雇人制限ニ関スル勅令案要綱 第6条関係 昭和13年12月5日
8 賃金統制ニ関スル勅令案要綱  〃 昭和13年12月22日
9 工場ニ於ケル就業時間制限ニ関スル勅令案要綱  〃  〃
10 総動員物資ノ使用又ハ収用ニ関スル勅令案要綱 第10条関係  〃
11 会社利益配当ノ制限ニ関スル勅令案要綱 第11条関係  〃
12 工場及事業場ノ制限ニ関スル勅令案要綱 第13条関係  〃
13 土地又ハ家屋其ノ他ノ工作物ノ管理、
    使用又ハ収用ニ関スル勅令案要綱
 〃  〃
14 事業設備ノ新設、拡張又ハ改良ニ関スル勅令案要綱 第十六条関係 昭和十三年十月三十一日
15 船員職業能力申告ニ関スル勅令案要綱 第二十一条関係 昭和十三年十二月五日
16 獣医師職業能力申告ニ関スル勅令案要綱 昭和十三年十二月二十二日
17 学校及事業場ニ於ケル技能者ノ養成ニ関スル勅令案要綱 第二十二条関係 昭和十三年十月三十一日
18 工場及事業場ニ於ケル技能者ノ養成ニ関スル勅令案要綱
19 船舶運航技能者ノ養成ニ関スル勅令案要綱 昭和十三年十二月五日
20 事業主ヲシテ為サシムベキ総動員業務ニ関スル計画ノ設定又ハ演練ニ関スル勅令案要綱 第二十四条関係 昭和十三年十二月二十二日
21 試験研究ニ関スル勅令案要綱 第二十五条関係