第一一七号(昭一四・一・一一)
新支那の外交問題 外務省情報部
輪出振興と特殊保税工場 大 蔵 省
時局とレコード 内 務 省
国際政局・回顧と展望(下) 外務省情報部
内閣更迭
近衛首相談
平沼首相談
大命を拝して (平沼首相ラヂオ放送)
最近公布の法令 内閣官房総務課
時局とレコード 内務省
自粛自戒のレコード界
今度の支那事変によつて一般の平和産業が相当の影響を受けたことは周知の通りであるが、特にレコード製造業のやうな娯楽産業は従来の行き方が時局精神に反すること多かつたゞけに深刻な打撃を受けた。日本のレコード製造業の黄金時代といへば昭和九、十、十一年頃であるが、事変勃発前まではなほ相当な活況を呈してゐた。
ところが事変発生と同時に、国民生活は眠りから醒めたやうに一転、安逸な生活は許されなくなつて、国の間に自粛自戒の心理が強く働いた結果、娯楽のためにレコードをかけることを遠慮する向が多くなり、流行歌、漫才、浪花節等の大衆娯楽レコードの売行きが俄かに減少した。大衆物をドル箱とするレコード界にとつてこれは致命的な打撃であつた。昭和十二年の十一月、十二月となつて売行不振は一層深刻となり、例年なら書入れ時のこの節季(せつき)の売上高が事変前の例月の売上げより半減したといはれる。
この間の事情を内務省に納付される新譜の数を通じて視てみよう。勿論新譜の発行数から製作枚数や、売上枚数を推知することは出来ないが、どんな種類のレコードがよく売れるか、業者がどんなものに主力を注いでゐるかは大体推察出来る。流行歌のやうなものは、当ればすばらしく売れるので製造業者はいづれもこれに主力を注いでゐるが、当るか、当らないかは売出して見なければ判らないので『どれかゞ当るだらう』といはゆる散弾的に新譜を濫発する傾向があつた。だから新譜の多いことが必ずしも売上げの多いことを意味しないが、長い間売行が悪いものは必然的に新譜発行を見合せるから、相当の期間を通じてみるとその時代の需要の状況を測定し得られるものである。殊に事変以来種々の統制が加はつて無駄弾の濫発が出来なくなつてゐる今日では、新譜の発行数によつて需要を観測することが比較的正確となつて来てゐる。
事変の勃発した昭和十二年七月から同年十二月までの流行歌レコードの新譜発行数を見ると八、九、十月と高率の減少を示し、十月には七月の約四分の一といふ激減振りである。これは前に述べた事変発生による国民の自粛自戒の反映である。十一月と十二月には新譜発行が増加してゐるが、これは不振なレコード界に景気をつけようといふ意図や種々の意味が含まれてをり、実際の売行きは極度に悪かつた。
しかし昭和十二年十二月を底として、昨年の四月頃まで極度の不振を続けたレコードの売行きも、人間生活が長い間娯楽なしには過し得ない一証左でもあらうか、大衆が時局に馴れるに随つて、幾分買気を回復し、最近は新譜発行の減少に反して売上げは却つて増加して来てゐるとのことである。
下に事変発生前後の新譜発行数の表を掲げて見る。
新譜発行の減少状況
自昭和11年9月1日 至同 12年8月末日 |
自昭和12年9月1日 至同 13年8月末日 |
減少数 | ||||
洋楽 |
2,122 |
3,086 |
1,746 |
2,411 |
376 |
675 |
計 | 11,135 | 14,636 | 7,580 | 10,269 | 3,555 | 4,367 |
註 (1) 支那事変により昭和12年9月より新譜の発行減を見たのであるから