第一一七号(昭一四・一・一一)
新支那の外交問題 外務省情報部
輪出振興と特殊保税工場 大 蔵 省
時局とレコード 内 務 省
国際政局・回顧と展望(下) 外務省情報部
内閣更迭
近衛首相談
平沼首相談
大命を拝して (平沼首相ラヂオ放送)
最近公布の法令 内閣官房総務課
内閣更迭す
---- 平沼内閣の誕生 ----
支那事変勃発以来一年有半非常時局を担当して来た近衛内閣は、事変が東亜新秩序建設の新段階に入つたのを機に、新事態に処するには新たな内閣による庶政の刷新と民心の一新を必要とし総辞職を決意し、近衛内閣総理大臣は一月四日各大臣の辞表を取纏めの上参内、闕下に之を捧呈するに至つた。
仍つて後継内閣組織の大命は平沼枢密院議長に下されたので、直ちに組閣に着手、翌五日午後四時三十分宮中に参内して閣員名簿を捧呈し、同日午後五時四十五分平沼新首相の親任式、同七時三十分より新閣僚の親任式が行はれた。同時に前内閣組理大臣近衛公爵は枢密院議長に親任せられると共に、内閣官制第十条(各省大臣ノ外特旨ニ依リ国務大臣トシテ内閣員ニ列セシメラル、コトアルヘシ)により特に国務大臣として内閣員に列せしめられた。かくて新内閣の陣容は左の如く成立するに至つたのである。
内閣紙理大臣 正二位勲一等男爵 平沼騏一郎
外務大臣 従三位勲一等 有田八郎
内務大臣 正三位勲二等侯爵 木戸幸一
大蔵大臣 従四位勲三等 石渡荘太郎
陸軍大臣 陸軍中称従三位勲一等功三級 板垣征四郎
海軍大臣 海軍大将正三位勲一等功四級 米内光政
司法大臣兼逓信大臣 従三位勲二等 塩野季彦
文部大臣 陸軍大将正三位勲一等功四級男爵 荒木貞夫
農林大臣 従三位勲二等 桜内幸雄
商工大臣兼拓務大臣 従三位勲一等 八田嘉明
鉄道大臣 従三位勲一等 前田米蔵
厚生大臣 従四位勲三等 広瀬久忠
内閣書記官長 正四位勲二等 田辺治通
法制局長官 従三位勲二等 黒崎定三
近衛首相談 総辞職に際し 昭14・1・4
本日私は闕下に辞表を捧呈いたしました。私は一昨年六月乏しきを以て図らずも大命を拝し、内閣首班の重責に膺りまするや、日ならずして支那事変の勃発を見るに至り内外の時局はとみに重大を加へたのであります。私は菲才その任に堪へざるを惧れたのでありますが、事態の推移は容易に内閣の更迭を許さないものがありましたが故に、敢へて駑純に鞭つて今日に及んだものであります。
然るに今や事変は新段階に入り、東亜永遠の平和を確保すべき新秩序の建設に向つて主力を注ぐべき時機は到達致しました。惟ふに此の新たなる事態に処するが為めには、新たなる内閣の下に新たなる庶政の構想工夫を運らし、以て民心の一新を図ることの必要なるを確信するものであります。然も事変に処すべき帝国不動の方針は、嚮きに畏くも聖断を仰いで確定せられて居るのであります。私は今こそ重責を拝辞すべきでありまして、此の上猶ほ任に留ることは恐懼に堪へぬと思ひます。是れ闕下に骸骨と乞ひ奉つた所以であります。
平沼首相談 親任式終了後 14・1・5
不肖の身を以て大命を拝しましたことは、恐懼の至りに堪へませぬ。此の上は微力の限りを尽して輔弼の重責を果す所存であります。
申す迄もなく国家は今や未曾有の難局に直面し、之が打開は容易の業でありませぬが、皇室の御稜威の下に於て、朝野一致、伝統的国民精神を発揮致しますれば、決して此の難局に堪へ得ないことはないと信じます。我が同胞は古来国難ある毎に、一糸紊れざる統制を保ち、國體意識を強化して参りました。現在は最も其の急を要する時で、益々其の結束を鞏固にすべきであります。
現内閣の一般方策は、適当の時機に於て公表致しますが、国家の総力を聖戦の目的貫撤に集中すべきことは勿論であります。而して事変の処理に就きましては、曩に前内閣が聖断を仰いで確定したる不動の方針がありますから、之を遂行すべきは固より、此の方針の下に着手したる各般の施設は、萬難を排して完成する覚悟であります。
全国民が三ケ年に亙れる出征皇軍の多大なる労苦に想到せられ、戦時体制下の不自由を忍び、更に銑後の務めに遺憾なき注意を払はれつゝあるは、洵に感激の外ありませぬ。不肖は此の際、叡旨を奉体し、全国民と共に大なる勇気と大なる希望とを以て、時艱克服の急に赴く決心であります。
大命を拝して 平沼内閣総理大臣 14.1.6放送
私は此の重大時局に際しまして図らずも大命を拝し、昨日内閣総理大臣の重任に膺ることと相成りました。故にラヂオを通じて全国民諸君に親しく御挨拶の言葉を申述べますることは、私の最も欣幸と致す所であります。
支那事変は既に第三年を迎へ、着々戦果を収めて今や新らしい段階に入りました。是れ偏へに御稜威の下、忠勇なる将兵諸士の奮闘と銑後国民の熱誠とに依るものでありまして、寔に感激の外ありませぬ。殊に長期に亙り各地に転戦し、幾多の艱難を克服し而かも連捷を重ねつゝある我が将兵の方々に対しましては心より感謝致すと共に、護国の英霊に対しましては深く哀悼の意を表する次第であります。
支那事変に対処すべき帝国の方針は、畏くも聖断を仰ぎ奉りました確固不動のものが存するのであります。前の内閣は之に基づいて諸般の施策を進めたのでありますが、新内閣に於きましても勿論此の不動の方針に基づきまして、あくまで所期の目的達成に一路邁進するのみであります。
固より時局の前途が愈々多難なるべきことは察するに難くないのでありまするが、此の難局を打開し光明ある前途を拓きまする為めには、国家の総ての力を此の目的貫徹に集中すべきは言を俟たざる所であります。従つて今後の政策の重点は綜合国力の拡充に置き、広く世界の状勢を注視して之が運用に当りたいと思ふのでありまして、既往に泥まず、新奇を衒はず、専ら国家総動員態勢を強化して内外各般の国策遂行に当るつもりであります。
申すまでもなく、我が国の政治の基礎は、全国民が如何なる職業にあつても各々その分を尽して皇室を輔翼し奉る万民輔翼に存するのであります。それ故に仮令如何なる国難に直面しても却つて益々一致団結、國體意識を強化して之を克服し来つたのであります。先般の開院式の御勅語の中に仰せられた如く、此の伝統的国民精神の昂揚と国家総力の発揮こそ、東亜に於ける新秩序の建設といふ大業を完成する最も大事な要件であります。
私は大命を秤しました上は、聖旨を奉体し、粉骨砕身、御奉公申し上ぐる決心であります。
全国民諸君に於かれましても、此の心事を諒とせられ、挙国一致、協力せられむことを切望て已まぬ次第であります。