第五九号(昭一二・一二・一)
 満州国に於ける治外法権の撤廃及満鉄付属地行政権の移譲 外務省情報部
 時局と農村の使命          農 林 省
 時局と産業              商 工 省
 戦争と鉄道              鉄 道 省
 戦況
  大本営設置せらる         陸軍省新聞班
  黄浦江の水路開く         海軍省海軍軍事普及部
 日独伊防共協定記念国民大会に於ける近衛内閣総理大臣祝辞
 最近公布の法令          内閣官房総務課

日独伊防共協定記念国民大会に於ける近衛内閣総理大臣祝辞

 日独防共協定成立後、期年ならずして先日新に伊太利国
の正式参加を見るに至り、今や現代世界に於ける尤も生気
溌剌たる三大国が、本協定を枢軸として世界の秩序維持の
保証に当つてゐるのであります。然かも今日の情勢により
て見るに、遠からざる将来に於て、猶有力なる二三の国が
同志として参加する可能性も窺はるゝのであります。古き
国際上の規約が、新時代の機運に応じて、自ら進んで調節
すること能はず、自然に其の效力を解消しつゝある今日、
文化的意義を豊富に含蓄せる本協定成立の精神こそは、明
日の国際世界に対し、中心的重要性を与ふるものでありま
す。私は本日の記念式に当り、此の歴史的協定の意義を再
認識し、一は以て、今次事変中に於ける締盟両大国の友情
に感謝すると共に、時局に対し、国民諸君の自覚を新にせ
られんことを希ふものであります。
 防共協定成立の動機は、いふまでもなく、共産主義イン
ターナショナルの国際的の脅威に対し、認識を同じうする
国家が国際的規模に於て、之を防衛せんと欲するに外なら
ぬものであります。斯の如く受動的にして且平和的なる協
定に対し、何等かの危惧を感ずる国がありとすれば、之は
彼等の疑心暗鬼と申す外ないのであります。欧州大戦以来
二十年間に亙る世界不安の原因の一は、実にコミンテルン
の奇怪なる行動そのものにあつたと断定し得るのでありま
す。独逸も、伊太利も、日本も、大なり小なり此の陰謀の
為に悩まされ、唯我々の国家的生命の旺盛なるが故に、今日
国内に於けるその活動を駆逐し得たのであります。然し他
の国家的組織の脆弱なる分野に於て、今日猶恐るべき毒素
を蔓延しつゝあることは、スペインや支那の実例に於て、
明白に看取せらるゝ所であります。
 今日の日支事変の究意の原因に到りては、之又、幼稚なる
支那の民族主義的情熱を日本攻撃の前に集中せしめたる
コミンテルンの戦術に基く所大なりと云はざるを得ぬので
あります。然かも、コミンテルン自体の窮余の策として、日
支事変を長期に亙らしめ、以て此の間に漁夫の利を占めん
とするに在ることも、略々明瞭であります。東洋の二大国と
して、本来提携の対象たるべき支那に対し、今日膺懲の師
を起さゞるを得なかつたことは、我々の本意に反したる已
むを得ざる成行でありまして、今以て遺憾の念を禁じ能は
ざるものがあり、私は支那の識者が、此の点に対する反省
を深刻に致し、速かに同文同種の天命に率ふて、真の国
家建設の大道に還元するの日あるを中心[ママ]から期待するもの
であります。
 思ふに悪しき木によき果実は成らぬのであります。過去
の事実を顧るに、コミンテルンの活動するところ民心は
頽廃し、産業は破壊され、国家組織の内部は白蟻の如く浸
蝕されて行つたのであります。この運動と国家の興隆と
は、全面的に両立し能はぬものであります。従つて此の運
動に制限を加ふることが独り祖国の防衛上のみならず、人
類の真の文化擁護の為に必須の要件であることを、今日
我々は体験を以て断言せんと欲するものであります。
 実にコミンテルンの禍害はその政治的行動に現はるゝを
俟たずそれ以前にその思想そのものゝ中に我々の到底承認
し得ざる毒素を含んでゐると信ずるのであります。彼等は
一切の国家及民族よりその倫理的意義を剥奪し全体の調和
と愛に替ふるに、闘争と憎悪を以てせんとするのでありま
す。その唯物的個人主義に発足したる世界観たるや、天地
の大道に参して、悠々と群団の生を営まうとする人間の本
質を遙かに遊離したものであります。
 我が日本国民の信念に於ては、国家のよつて成立する基
礎は実に道義であります。道義国家の生命的活動の中に於
てのみ、個人の真の自由はあります。一億万民衆が、上御一
人の前に帰することに於て我々の感激は高潮に達するので
あります。斯の如き信念と感情の上に於て過去三千年の日
本歴史は営まれ、その歴史的生命の継続発展として我々は
今日青天白日の前に行動しつゝあるのであります。我々が
明日の世界文化に寄与するものありとすれば、祖国を愛す
る所以のものを以てこれを他に及し、全体的調和の前に個
人の慾望を統制せんとするところの、いはゆる忠と義の国
民的精神以外にはないのであります。此の精神的基礎あり
て然るのち一切の文化的活動は実を結ぶのであります。
我々の偉大なる盟邦、独逸と伊太利は大戦後の難局のさ中
に立ちて自ら振ひ以て今日の大をなしたのであります。そ
の業績の間に看取さるゝものは、宛かも我国の武士道に
髣髴たる高貴なる精神の昂揚であります。一方支那大陸の
戦場に生るゝ幾多肉弾的挿話の中に、私は飛躍する大日本
の呼吸を感得して密かに心強く思ふものであります。今日
此の席を通じて私は遙かに両大国民に敬意を表すると共
に、顧みて我が国民諸君が確信と謙遜とを竝び持して、遼
遠の前途に一歩を進められんことを祈るものであります。 
                                   (了)