第五六号(昭一二・一一・一〇)
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  時局と国民精神作興        文 部 省
  時局と防諜            内 務 省
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   軍艦旗閘北に耀く         海軍省海軍軍事普及部
  最近公布の法令          内閣官房総務課



時局と国民精神作興  文部省

 国民精神作興に関する詔書が渙発せられましてから
本年は満十四年に相当しますが、時恰も支那事変の勃
発を見、国民一致協力しで時艱の克服に邁進しつゝあ
る秋に際会して居りますので、この際国民精神を大い
に作興すべきことが特に緊要のこととせられるのであ
ります。今この詔書に就て謹んで拝察し奉りまする
に、先づ、

 国家興隆ノ本ハ国民精神ノ剛健ニ在リ之ヲ涵養シ之
 ヲ振作シテ以テ国本ヲ固クセサルヘカラス

と仰せられ、国家興隆の根本は国民精神の剛健に在る
ことを昭示し給ひ、当時我が国民の間に萌しました不
健全なる思想を排し、大いに国民精神を作興すべきこ
とをお諭しになつてあるのであります。而して 大正
天皇には、 明治天皇の教育に大御心を留めさせ給へ
ることを御回想遊ばされjして、

 國體ニ基キ淵源ニ遡リ皇祖皇宗ノ遺訓ヲ掲ケテ其ノ
 大綱ヲ昭示シクマヒ

と仰せられてありますが、是は教育に関する勅語を指
示し給うたものと拝察せられます。次に、

 後又臣民ニ詔シテ忠資勤倹ヲ勤メ信義ノ訓ヲ申
 ネテ荒怠ノ誡ヲ垂レタマへリ

と仰せられてありますのは、戊申詔書の聖諭を指示し
給うたものでありまして、このこ大詔勅を以て、

 是レ皆道徳ヲ尊重シテ国民精神ヲ涵養振作スル所以
 ノ洪謨ニ非サルナシ

と仰せられ 明治天皇の宏大な思召を昭示し給うたの
であります。
 教育に関する勅語の渙発せられました当時の我国は
未だ国力も充実して居らなかつた為、他の国々からは
東洋の一独立国といふ程度にしか認められて居らなか
つたのであります。其の後国民精神は益々涵養振作せ
られ、著々として国家が興隆しまして明治二十七八年
の日清戦役に於て東洋の強大国支那を破りましたる結
果、一躍して日本は東亜の一大勢力となり、次いで明治
三十七八年日露戦役に於て世界の強国たる露西亜に打
ち勝ちましてから、日本は遂に世界列強の中に不動の
地位を獲得したのであります。然るに戦後国民の精神
が漸く緊張を欠くに至りましたので、明治天皇は明
治四十一年十月十三日に戊申詔書を渙発せられ、忠実
勤倹を勧め信義を教へ自彊息まざるべきことを諭し給
うたのであります。そこで国民は聖旨を奉体して深く
戒慎し、奮励努力して参りましたので、

 爾来趨向一定シテ效果大ニ著レ以テ国家ノ興隆ヲ致
 セリ

と仰せられたのであります。其の後幾許もなくして、
明治天皇崩御あらせられ、大正天皇御即位あらせら
れましたが大正天皇には御即位の勅語に於ても、

 皇考維新ノ盛運ヲ啓キ開国ノ宏謨ヲ定メ祖訓ヲ紹述
 シテ不磨ノ大典ヲ布キ皇國ヲ恢弘シテ曠古ノ偉業ヲ
 樹ツ聖徳四表ニ光被シ仁沢遐陬ニ霑洽ス

と仰せられまして 明治天皇の御盛徳を讃へさせ給ひ
この御遺訓を承け継いで専ら政事に大御心を注がせ給
うたのであります。大正十二年九月一日関東大震災が
起りますや、 天皇には同年九月十二日詔書を下し給
ひ、

 朕前古無比ノ天殃ニ際会シテ民(ジユツミン)ノ心愈々切ニ寝食
 為ニ安カラス

と仰せられ、深く御心痛遊ばされましたることは洵に
恐懼に堪へない次第であります。
 明治から大正の御代にかけて我国の学間技芸は益々
開け、人々の知識は日々に進んで来ましたが、他方に
於ては欧州大戦の影響を受けた経済界の変調に促され
人々の心が浮薄になり華美を好み、放縦に流れようと
する風が次第に国民の間に現れはじめ、又国情と相容
れない外米思想と相俟つて、軽はずみな不穏過激な気
風を生じて来たのであります。 天皇にはこの弊風を
深く憂ひ給ひ、

 今ニ及ヒテ時弊を革メスムハ或ハ前緒ヲ失墜セムコ
 トヲ恐ル

と仰せられたのであります。かやうな時弊の生じまし
た上に閑東大震災が起り有形無形の莫大なる損害を蒙
りましたので、天皇には深く大御心を悩まし給うた
のであります。而してこの復興の原動力ともなるべき
ものは、結局剛健なる国民精神であるといふことを昭
示し給ひ、この精神を振ひ起すことが何よりも緊要で
あるとせられ、

 是レ実ニ上下協戮振作更張ノ時ナリ

と仰せられ挙国一致、国民精神を振作更張して艱難を
克服し国運の発展を図るべきことを諭し給うたのであ
ります。而してこの振作更張する道は 明治天皇の下
し賜はつた詔勅を遵奉して其の実際の效果を挙げる
より外はないと仰せられたのであります。如ち、

 宜ク教育ノ淵源ヲ崇ヒテ智徳ノ竝進ヲ努メ綱紀ヲ粛
 正シ風俗ヲ匡励シ浮華放縦ヲ斥ケテ質実剛健ニ趨
 キ軽佻詭激ヲ矯メテ醇厚中正ニ帰シ人倫ヲ明ニシテ
 親和ヲ致シ公徳ヲ守リテ秩序ヲ保チ責任ヲ重シ節制
 ヲ尚ヒ忠孝義勇ノ美ヲ揚ケ博愛共存ノ誼ヲ篤クシ入
 リテハ恭倹勤敏業ニ服シ産ヲ治メ出テテハ一己ノ利
 害ニ偏セスシテ力ヲ公益世務ニ竭シ以テ国家ノ興隆
 ト民族ノ安楽社会ノ福祉トヲ図ルヘシ

と仰せられてあるのであります。斯く諄々と昭示し
給ひまして最後に、 天皇は深く臣民の協翼に信頼せ
られ日本の国の基礎を愈々鞏固にして、皇祖皇宗より
承け継ぎ給へる国家興隆の大業を益々恢弘せられんこ
とを念じ給ひ、又臣民に対して、よく聖旨を奉体して
国民精神の剛健に勉むべきことを仰せられて居るので
あります。
 今や支那事変の拡大に依り国を挙げての非常時局に
直面し、国民一致協力して時艱を突破する為国民精神
総動員の運動を起し著々その実績を挙げつゝあります
るが、この運動の眼目と申すべきものは、尊厳にして
万邦無比なる我が國體の精華を顕現し彌々日本精神を
発揚することでありまして、この国民精神作興に関す
る詔書の御趣旨を奉体して之を実践することに外なら
ないのであります。即ちこの運動の目標は挙国一致
盡忠報國・堅忍持久の精神を益々振起し社会の風潮と
一新して質実剛健の精神を涵養し、厳に軽佻浮薄を戒
めて道義に基く生活をなし、勤倹力行各々其の業務に
精励し、小我を捨てゝ大我に就くの精神を体現するに
努むると共に銃後の後援を更に強化持続し一方勤労報
国、資源の愛護等に努め以て皇軍の武威を発揚するに
遺憾なきを期するに在るのであります。我々国民は今
日更に覚悟を新にし、此の詔書の御趣旨を奉体し、国
民精神の作興に勉め以て皇運を扶翼し奉らんことを期
せねばなりませぬ。