第四三号(昭一二・八・一一)
事変第二特集号
平津地方の掃蕩 陸軍省新聞班
事変と帝国海軍 海軍省海軍軍事普及部
在支邦人の保護 外務省情報部
銃後の後援 社 会 局
国家総動員の構へ 資 源 局
暴利取締令の改正 商 工 省
国家総動員の構へ 資源局
今次の事変の為行はれた派兵は、未ださして大規模のものではない。従つて之が為必要なる物資の調達の如きも、之を総額として見れば、未だ必ずしも多大なりとは考へられぬ。然るに、地方的には、或は運賃の暴騰を見るもあり、或は相当の価格騰貴を来たした物資もある次第でみる。思ふに、これらは地方的に突如需給の平衡が破れた結果であつて、相互に複雑微妙なる有機的関連を有する今日の社会に於ては、其の一端に生じた変化も、之に隣接する他の分野に、其の影響を齎すのである。此の点に鑑みるときは、今後、這般相次いで議会に上程せられたる事変関係予算が成立実施を見る暁に於ては、更に社会の各部面に相当の影響を現すことあるべきは、容易に考へ得らるゝ所である。乃ち、速かに夫々適切なる方策を講じて、整然として些の混雑なく、起り来るべき各般の影響の各場面に対応して、所要の施設を為し、必要の態勢を整へて行くことが、極めて肝要であると言はねばならぬ。これ如ち所謂平時転移の措置に他ならないのであつて、平素総動員準備に於て研究せられ来つた所の第一歩を進めるものである。此の課程を経て、更に事態の拡大を見るに至らば、夫々の必要に応じて或は産業界に、或は金融界に、或は労働界に各種の戦時政策の実施を見るに至るのであつて、所謂国家総動員の実施といふ段階に進むのである。
現代の戦争が、全国力を挙げての闘争であり、従つて国防の要諦は、単に兵力の優秀、兵器の精鋭を備ふるを以て足れりとせず、広く国力全般の最高発揮に対する準備即ち国家総動員準備を併せ整ふるに在ることは、今茲に多言を要せざる所である。国家総動員準備の何たるかに付ては、曩に本週報(第三十二号)に於て述べたる通りであるが、之を要するに国防力の有效なる発揮の為には、所謂物資の増産、海外給源の利用、代用品利用の促進、廃品の回収等、巨額なる物資の軍需及民需に対し、妥当なる物資保育の措置を講じて、速かに需給の調整案配を為し得る万般の用意を進めのみならず、全国民の智力、体力、道徳が、産業、科学、其の他国家社会全般の活動分野に於て、一に国防力の最高発揮を目途として、愈々育成発揚せられねばならぬ。而して又、之に依つて得たる各般の人的及物的資源を国防の目的の為運用するに当つては、例へば労務者の使用解職等の調整、物価の規正、物資の移動消費等の制限、各種の産業又は金融の統制等、其の需要充足の円滑を期し、且国民生活全般の確保を図り得る様十分の計画、施設を講ぜねばならぬのである。而して事態の状況、推移に応じて、其の力を注ぐ要点を異にするのは当然であつて、現下の如き場合に於ては、今や国家総動員の場合と同様の構へに迄強化せられねばならぬのである。
既に国家総動員の研究準備に付ては、昭和二年之が統括事務機関として資源局の設置せられてより、各庁協力して鋭意之に当り来つた所である。之が実施を見るに至らば、更に其の緊密なる協力聯絡は固より、又国民全般の深き理解に基く、真剣な全力を挙げげての協力一致を必須の要件とするのである。固より国家総動員万般の措置は、之を貫くに、義勇公に奉ずる我国固有の日本精神を以てして、初めて能く其の生気漲溢せる全效果を現すことは茲に言ふを俟たぬ所である。今日或は慰問に、或は献金に、津々浦々に普く充満する銃後の熱誠は、此の国家総動員の基本精神の備へに於て、我に些の憂なき心強さを覚えしめるものであるが、此の機に於て、我々国民は、更めて真の国家総動員に対する物心の構へに苟くも欠くる所なき様、十分意を致さねばならぬ。