第二四号(昭一二・三・三一)
 紀元二千六百年に就て         内閣紀元二千六百年祝典事務局
 国防上より見たる米穀の問題    陸軍省新聞班
 我国に於ける犯罪現象         内閣統計局
 永代借地権の撤廃成る        外務省情報部
 最近公布の法令              内閣官房総務課

我国に於ける犯罪現象   内閣統計局

 犯罪現象に関する統計は、刑事政策樹立の為の根本資料として、又国民道徳の消極的方面を観察する為の参考資料として必要欠く可からざるものである。
 我国の刑事統計は、刑法犯と特別法犯の二者に分れて居るが、特別法犯中大多数を占むるものは所謂法定犯であつて、此の法定犯は、我々が犯罪として普通考へる自然犯とは其の趣を異にするのみならず、法令の改廃、検挙方針の変遷等に依り其の犯罪数も影響を被ること少くない。従って此処では、観察の対象を専ら刑法犯に限定し、之に依つて我国の犯罪現象を述べることにした。
 先づ内地に於ける第一審終局刑法犯有罪人員(以下単に有罪人員と謂ふ)増減の趨勢をみると、大正の初期より半頃にかけては、大体十万乃至十一万台でさしたる増減を示さなかりたものが、大正九年より減少し、其の後は、同十四年乃至昭和二年に於ける一時的増加を除くと、昭和七年迄各年八万乃至九万台であつた。然るに昭和八年より再び増加に転じ、同年早くも十万台に復し、九年には十二万台と云ふ大正元年以来の最高数字を記録するに至つた。
 
上述の人員を各年の人口に対比せしめて犯罪率をみると、大正の初期には大体人口一万に付二〇台であつたのが、大正九年俄に一六台に下降し、其の後は、大正十四年乃至昭和二年に於ける例外的騰勢を除くと、一進一退乍ら漸減の傾向を辿り昭和七年に至つて居る。然るに翌八年より増加に転じ、同九年には一七・八六を示して居る。

 主要なる犯罪の種類に付、大正の初の三箇年と最近の三箇年とに於ける各犯罪人員の人口一万に対する割合をみると、賭博及富籤に関する罪は九乃至一一台より六乃至八台に、竊盗の罪は四台より三内外に、詐欺及恐喝の罪は二弱より一内外に、横領の罪は一内外より〇・四内外に減じて居る。然るに、傷害の罪は一弱より一・三乃至一・五に、過失傷害の罪は○・一台より〇・七乃至〇・九台に増加して居る。而して殺人、放火、強盗の罪等は何れも○・一台で、目立つた増減を示して居ない。

 次に昭和九年の内地に於ける有罪人員一二〇、八五四人を主なる犯罪別にみると、賭博及富籤に関する罪五九、一四五人(四八・九%)にして、総数の半ば近くを占め、竊盗の罪二一、七四八人(一八・〇%)、傷害の罪一〇、ニ九九人(八・五%)、詐欺及恐喝の罪七、四一六人(六・一%)、過失傷害の罪六、ニ二六人(五・ニ%)、横領の罪ニ、九七四人(二・五%)相亜(つ)いで居る。而して其の他の罪の中殺人の罪は一、〇四一人、放火の罪は九三八人、強盗の罪は七九七人である。
 更に之を犯罪地に付市郡別にみると、市部九〇、一六二人郡部三〇、六九二人で、市部及郡部人口に対する割合は、夫々人口一万に付市部四一・六五、郡部六・五九に該(あた)り、市部は郡部に此し六倍以上の高率を示して居る。
 又犯罪地を府県別にみると、東京断然多く一七、八七八人で首位を占め、大阪之に亜いで一〇、四五四人にして、以下兵庫(七、六五四人)、愛知(五、七四九人)、北海道(五、三八三人)、福岡(五、二一一人)の順で何れも五、000人以上である。少数を示して居るのは、沖縄(四七二人)、山形(六三四人)、鳥取(六七七人)、石川(六八〇人)、鳥根(七八二人)、宮崎(七九〇人)、徳島(八ニ○人)、岩手(八六三人)、福井(九八五人)、宮城(九九六人)で何れも一、000人未満である。
 上述の人員を同年の各府県人口に対比せしめて府県別犯罪率をみると、人口一万に付東京二九・一で最高率を示し、之に亜いでは、神奈川(二七・八〇)、兵庫(二七・三五)、岡山(二七・〇ニ)、大阪(二六・六六)、大分(ニ五・三四)、京都(二四・七七)、奈良(二四・二二)、和歌山(二二・六九)、愛知(二〇・八〇)、廣島(二〇・三〇)で何れも二○以上を示して居る。低率なのは、山形(五・六五)、鹿児島(六・九二)、沖縄(七・九六)、宮城(八・一六)、岩手(八・三四)、新潟(八・五一)、石川(八・九三)、熊本(九・四六)、宮崎(九・六九)で何れも一〇未満である。
 主要なる犯罪に付て、昭和九年の各犯罪人員の人口一万に対する割合を府県別に見ると、賭樽及富籤に関する罪は、其の地方的相違が最も著しく、神奈川の一八・〇四最も高く、奈良・東京・兵庫・大分・和歌山・大阪・京都・岡山・三重・千葉順次相亜いで一〇以上に昇り、鹿児島の一・一八最も低く、山形亦一台に止まり、沖縄・宮崎・宮城もここに満たず、概して都会地及近畿地方に高く、東北及九州地方に低い。竊盗の罪は、大阪の七・三六最も高く、東京亦七台に昇り、京都・愛知・兵庫・福岡等の都会地之に亜ぎ、最も低いのは秋田の〇・七六であつて山形・新潟も一に満たず、其の他東北地方に於て低率である。傷害の罪は、岡山の三・八七最も高く、愛媛・兵庫・山梨も亦三以上に昇つて之に亜ぎ、長野の〇・五七最も低く、之に亜いでは石川・新潟・岡山・福井等の北陸地方亦〇・七台に止まつて居る。詐欺及恐喝の罪は、京都の二・三三最も高く、大分亦二台に昇り、沖縄の○・四二最も低く、其の他東京を除く関東地方及東北地方に於て低い。過失傷害の罪は神奈川の一・九〇最も高く、東京・京都・大阪・兵庫の都会地に相亜いで高く、山口の○・一五最も低く、其の他東北地方に於て低い。横領の罪は、岡山の一・四五最も高く、其の他は一に満たず、鹿児島の〇・二最も低い。殺人の罪は、福岡の〇・三二最も高く、青森・石川・宮城の○・○五最も低い。放火の罪は、秋田の〇・三七最も高く、京都の〇・〇四最も低い。強盗の罪は、東京・神奈川の〇・二五最も高く、高知の〇・〇一最も低い。