第一九号(昭一二・二・二四)
 再開後の議会に於ける税法実の概要 大蔵省主税局
 思想戦より観たる防共      陸軍省新聞班
 シベリアに於ける鉄道建設の躍進   外務省情報部
 停会明議会に於ける国務大臣の演説
  林内閣総理大臣演説
  林外務大臣演説
  結城大蔵大臣演説

    林 外 務 大 臣 演 説 

 引続き外務大臣として所見を述べ度いと存じます。政府の外交方針は只今申述べた通りでありますが此の方針の遂行に当りましては満洲国との親善不可分の関係を益々鞏固ならしめ対支対蘇の関係を調整することに特に意を用ひんとするものであります。
 先づ支那に対する関係に付きましては帝国と同国と共に東亜の安定を確保することを念として努力し来つたのでありますが、支那側に於ては帝国の真意を十分理解するに至らず両国間に種々の問題を発生しましたことは甚だ遺憾とする所であります。此の際両国民間の感情を融和し国交関係の明朗化を計り互に手を携へて東亜安定の実現を期することが肝要であると思ふのであります。之れが為には相互に両国の立場の理解に勉め単に政府のみならず特に民間の接触を繁くし、日支提携共助の実績を挙ぐると同時に、苟も之を阻害せんとするものは進んで排除するの覚悟を持し、以て両国国交の調整を図り度い決心であります。
 次に「ソヴィエト」聯邦との関係に付て一言致し会すれば東洋平和の為には同聯邦が東亜に於ける帝国の地位を正常に認識し、両国互に融和に勉むるの要あること勿論でありまして、此の際両国間に横たはる諸懸案の友好的解決を促進することは右目的に合致するものであります。従て私は「ソヴィエト」聯邦当局に於ても大局的見地に立脚し、右に協力せんことを要望するものであります。
 先般独逸国政府との間に防共協定の成立を見ましたことは近時世界殊に東亜に於ける「コミンテルン」の活動顕著なるものがあるに顧み、東亜安定の責任を有する帝国として当然執らざるを得なかつた措置であり、誠に時宜に適するものであります。政府と致しましては本協定の運用を錯らず以て之が十分の効果を収めんが為最善の努力を竭したき所存であります。
 帝国の二大友邦たる英米両国との親善関係を益々鞏固ならしめんとする帝国の方針は不変であります。日英両国間には調整を要する諸問題が存するのでありますが、何れも日英親善関係の根本を害ふが如き性質のものでなく、両国の相互理解に依り調整せらるべきものである事を確信するのでありあす。
 尚海軍軍縮問題に付て帝国は本年より条約の外に立つこととなりましたが、不脅威不侵略の方針を堅持する従来の態度に何等の変りなきは申す迄もない所であります。
 終りに対外貿易の伸展を図ることは帝国の発展に欠くべからざる要件であり、特に現下の我国経済情勢に徴して其の急務なるを痛感する次第であります。仍て政府は苟も貿易の伸張に対する障害は極力之を排除すると共に進んで貿易の促進の為適切なる施設を講ぜんとするものであります。
 以上の諸方針を実行するに当つては挙国一致の力に依らずんば所期の成果を挙げ得ないのでありますから、茲に諸君の御協力を切望する次第であります。