第一七号(昭一二・二・一〇)
紀元節制定の由来 紀元節御下賜金に就て 海上戦闘力に就て 暴露された蘇連の並行本部事件 |
文部省 宮内大臣官房総務課 海軍省海軍軍事普及部 外務省情報部 |
紀元節御下賜金に就て
皇室が常に薄倖者に対して憐愍の情を垂れさせ給ふことは今更申上る迄もない。即ち天変地異に際
し、或は凶歉に遭ひ若くは疫病等にて民の疾苦するに当つては勿論、常時に於ても不幸なる窮民に対
しては時々抑救恤を仰せ出されてゐるのである。
之は「天下億兆一人モ其処ヲ得サル時ハ皆朕カ罪ナレハ」と仰せられたのに基くもので、此の有難
い聖旨は更に明治二年八月二十五日の詔に明示せられてゐるのである。
朕登祚以降海内多難億兆未タ綏寧セス加之今歳淫雨農ヲ害シ民将ニ生ヲ遂ル所ナカラントス
朕深タス依而躬ラ節倹スル所有ヲ以テ救恤充ントス主者施行セヨ
即ち畏けれども、陛下御躬ら御節約を遊ばされれ之を救恤に充てよと仰せられ給うたのである。此
の大御心の現はるゝ処或は特旨に依る賜金となり、或は国際慈善賜金となり或は災害地御救恤となり
又は紀元節の御下賜金となるのである。
紀元節御下賜金の発端は大正十年二月十一日、内務省所轄の私設優良社会事業団体に対する御下賜
を以て其の始と為してゐる。内務省は明治四十一年度以降各種の救済事業中、其の成績の優良なるも
の又は社会的に必要なるものに対して助成金を交付し来つたのであるが、当時即ち大正十年頃に於て
の社会状態は救済事業の整備改善を要すること愈々切実なるものあるに鑑み、一層奨励の要あるを認
識し、予ての御聖旨に副ひ奉らんことを期しゐたる際、畏くも大正十年二月十一日の佳節に当り内務
省所管、文部省所管の両社会事業団体二百七十に対し、総額金二万八千五百五十五円を下賜せられた
のである。而して翌十一年に於ては総額金九万一千五百円、二百十三団体に及んだのであつた。
更に翌十二年には御下賜金は司法保護事業にも及び、又朝鮮総督府、台湾総督府、樺太庁、関東庁
所管の外地各種社会事業に、昭和四年には南洋庁所管の社会事業にも賜金を拝することになつた。
尚、内務省所管の社会事業、竝に外地社会事業は養老、育児、救療、隣保、窮民救助、宿泊保護、
貧児教育、生活扶助、授産、職業補導、職業紹介、少年教護、異常児保護、労務者共済、病者慰安、
社会教化、不具者再教育、其の他各種の救済事発等であつて、文部省の所管に属するものは主として
盲唖事業である。又司法省に属するものは主として司法保護事業であつて、改過遷善の更生に進まし
めんが為の事業であるが、近年は少年保護事業に対するものが特に注目に値するものである。逓信省
に属するものとしては海員の救済事業に関するものであつて、其の使命とする処は重要性を帯びてゐ
る。
今年の紀元節御下賜金は次の如くである。
所管別 | 賜金額(円) | 団体数 |
内閣 | 三八〇〇 | 一六 |
内務省 | 九八一〇〇 | 三九七 |
司法省 | 五二五〇〇 | 二一一 |
逓信省 | 五〇〇 | 三 |
文部省 | 一二八〇〇 | 五二 |
拓務省 | 二七三〇〇 | 一一九 |
以上合計七百九十八団体、総額金十九万五千円に及ぶもので、聖旨の宏大なる唯々感激に堪へぬ次
第である。
(宮内大臣官房総務課)