第一〇号(昭一一・一二・一六)
国際観光事業の一般趨勢 国際観光局
羊毛工業の現在と将来 商工省工務局
対支文化事業の動向 外務省情報部
最近公布の法令 内閣官房総務課
国際観光事業の一般趨勢 国際観光局
一 その指標
世界大戦後特に欧州諸国に於て急激なる発展を示した国際観光事業が、国家国民の興隆に必要なる事実は最近わが国にも大いに認められて来た。然しなほ人によつては、この事業を目して単なる営利の手段とする狭い領域のものゝやうに考へる向きがないでもないが、旅行者を誘致してその利用する施設やサービスに対する正当な代償として、国民が利益を享け国家が国際収支の改善を図らうとするのは、通商貿易と何等変るところがなく、国際観光事業を「見えざる輸出」と称する所以も亦こゝに在る。
さりながら観光事業が単なる経済観念のみに立脚するものと考へることも当らない。もつて高遠なる主義と理想がなければならぬ。それでなくてはこの事業を国家が国策として取扱ひ、国民が熱誠なる声援を送る必要はないことになる。
然からばその指標は何であるか。
その一つは国際間に於ける平和と協調に貢献すること、即ち外人の国内往来に依つて国民相互の理解と友好を増し、その真の理解に依る国際親善の美しい実を結ばせようとするのである。
次にわが国情の正しい紹介に依つて国際的地位の向上を図るにある。わが国は世界に誇る麗はしい風景と共に、豊かなる藝術や輝かしい文化を有つてゐるのであるから、それを世界の隅々にまで顕揚して躍進日本の国際間に於ける地位を一層昂むべきである。それには観光宣伝を通じてわが国の真の姿を宣示すると共に、恰も大なる磁石が多くの鉄粉を吸寄せる様に、わが国の麗はしい姿、強い力に誘引されて寄りつどふ人々を厚遇善導して、更に彼等の筆や口を通じてわが皇國の実情の正に斯くある事を知らしめなければならぬ。
この事業は更に国内産業を助長開発せしむべき使命をも負担する。欧州には「産業は旅行者に随ふ」といふ言葉があるが、わが国は現に欧米に伍して
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